(第26回)ジオ・ブロッキングがインターネットを介した著作権侵害訴訟の国際裁判管轄・準拠法の認定に与える影響(濱野敏彦)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2020.10.27
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。西村あさひ法律事務所の7名の弁護士が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

駒田泰土「論点の整理」

【シンポジウム】深化するインターネット社会と著作権をめぐる国際私法上の課題

著作権研究第46号(2020年)4頁~19頁より

A国に在住するX氏が、B国内のサーバに著作物を保存し、インターネットを介して誰でもダウンロードすることができる状態にした場合において、C国に在住するY氏が、自らが利用しているD国内のサーバに当該著作物をダウンロードしたとき、著作権者は、当該著作物についての著作権侵害訴訟を、どこの国で提起することができるのか(国際裁判管轄)、また、当該訴訟においてどこの国の法律が適用されるのか(準拠法)。

本稿は、このような事案における国際裁判管轄及び準拠法の論点を分かり易く整理した上で、近時積極的に用いられるようになっているジオ・ブロッキングを踏まえた考察がなされている点において、実務的な観点から示唆に富む論考である。

ジオ・ブロッキングとは、大要、地理的要因により、ウェブサイト等へのアクセスを技術的に制限することをいう。

このジオ・ブロッキングを用いることにより、著作物のインターネットを介した提供を地域毎に制御することが可能になる。

本稿では、ジオ・ブロッキングの事例の一つとして、欧州におけるGoogleが行った「忘れられる権利」に基づくリンク削除についての事例を紹介している。

Googleが、EUの加盟国バージョンの検索エンジンにおいてリンク削除を行い、さらにジオ・ブロッキングの使用を提案したところ、フランスの規制当局がGoogleが提案した対応では不十分であると判断し、当該判断に対するGoogleによる異議申し立てにおいて、欧州司法裁判所の法務官が、「忘れられる権利」に基づくリンク削除の対象はEU域内からの検索に限定されるべきであるという意見を2019年1月に公表し、同年9月には、欧州司法裁判所が当該法務官の意見に沿った内容の判決を言い渡した。

具体的には、欧州司法裁判所は、リンク削除の対象はEU域内からの検索に限定される旨を判示した上で、「そのさい、必要に応じて、法律の求めるところに従い、いずれかの加盟国からデータ主体の氏名をもとに検索を行うインターネットユーザが、検索結果のリストを通して削除対象のリンクに効果的にアクセスできないようにする、あるいは少なくともその気持ちをかなり殺いでしまうような手段を用いなければならない」と判示した。

当該判旨によれば、「忘れられる」権利に基づく削除請求はEU域内に限定され、一定の条件を満たせば、EU域内で行われるEU域外バージョンへのアクセスを遮断するジオ・ブロッキングを使用することにより、差止を実行したと評価されることになる。

本稿は、ジオ・ブロッキングにはさまざまなものがあり、回避しようと思えば容易に回避できるものも存在するために、当該判決において、「削除対象のリンクに効果的にアクセスできないようにする、あるいは少なくともその気持ちをかなり殺いでしまうような手段を用いなければならない」としている点に注意する必要があるとする。

ジオ・ブロッキングは、アクセス制限対象地域以外の地域からのアクセスを認めるものであることを考慮すると、アクセスが認められている地域のサーバを介する等してジオ・ブロッキングを回避して、ジオ・ブロッキングのアクセス制限対象地域からアクセスする方法があり得る。

また、本稿では、ジオ・ブロッキングについて、欧州では「不当な販売差別」であるとして問題視する傾向があり、2018年2月には不当なジオ・ブロッキングを禁止するEU規則が成立したことを紹介している。

しかし、本稿は、当該EU規則では、著作権コンテンツについてのジオ・ブロッキングは規制対象外とされている点等から、「属地的権利をエンフォースメントするという観点から実施されるジオ・ブロッキングは、正当と評価されることが多いだろう」と考察している。

ジオ・ブロッキングによる著作物のインターネットを介した提供の制御は、今後、日本の実務にも影響を及ぼし得る。

例えば、民事訴訟法3条の3第8号の「不法行為地」に該当する場合には日本に裁判管轄が認められ、この「不法行為地」には加害行為地に加えて結果発生地が含まれると解されているところ、日本をアクセス制限対象としたジオ・ブロッキングが用いられているときに、日本が「結果発生地」に該当するか否かという点が実務で問題になり得る。

日本でも、上記の欧州司法裁判所の判決と同様に、当該ジオ・ブロッキングを回避することの技術的困難性が争点になることが予想される。

このように、本稿は、インターネットを介した著作権侵害訴訟の国際裁判管轄・準拠法について分かり易く整理するとともに、ジオ・ブロッキングを踏まえた考察がなされている点において、実務的な観点から示唆に富む論考である。

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濱野敏彦(はまの・としひこ)
2002年東京大学工学部卒業。同年弁理士試験合格。2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2009年弁理士登録。2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向。主な著書として、『AI・データ関連契約の実務』(共編著、中央経済社、2020年)、『個人情報保護法制大全』(共著、商事法務、2020年)、『秘密保持契約の実務〈第2版〉』(共編著、中央経済社、2019年)、『知的財産法概説』(共著、弘文堂、2013年)、『クラウド時代の法律実務』(共著、商事法務、2011年)、『解説 改正著作権法』(共著、弘文堂、2010年)等。