(第25回)コロナ禍で改めて問われた株主総会の物理的会合の意義(野澤大和)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2020.09.25
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。西村あさひ法律事務所の7名の弁護士が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

舩津浩司「コロナ禍が示す株主総会の未来像」

法律時報92巻8号(2020年7月号)1頁~3頁より

新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」という)の感染拡大が終息する見通しは立っておらず、いわゆる「第2波」の懸念もなお残っており、国民生活だけでなく、企業活動にも大きな影響が生じている。そのような状況下で、本年の上場会社の定時株主総会は、例年の定時株主総会とは全く様相が異なるものとなった。例えば、COVID-19の感染拡大の影響による決算業務及び監査業務の遅延のために定時株主総会の開催を延期したり、継続会を開催したりする上場会社や、例年と同様のスケジュールで定時株主総会を開催した上場会社においても、COVID-19の感染防止措置として、事前の議決権行使の推奨、来場を控える呼びかけ、さらに会場への入場制限等をとるものもあった。さらに、COVID-19の感染を防止しつつ円滑に定時株主総会を終了させるための方策を検討する上場会社を支援するために、政府からは従来の株主総会実務とは異なる新たな解釈1)が示されたり、経済団体からも当該解釈を反映した招集通知のひな型2)等が公表されたりした。筆者は、毎年、上場会社の株主総会対応のアドバイスを行っているが、本年は、上場会社の総会担当者が、COVID-19の感染拡大の動向が読めない状況(即ち、株主総会開催の検討開始から開催までにはタイムラグがあり、実際に開催する時期にCOVID-19の感染状況が悪化しているか、それとも終息しているか明らかではない状況)において慎重に検討を行い、相当苦労された姿を目の当たりにしている。その結果、幸いにも、本年の6月総会の出席者の数は8割減少し3)、上場会社によるCOVID-19に関する株主総会対応は功を奏したと思われる。

法律時報2020年7月号
定価:税込1,925円(本体価格 1,750円)

定時株主総会の延期や継続会の開催を決定した上場会社を含め本年の株主総会対応は一段落しつつある。そこで、政府等から示された従来の株主総会実務と異なる新たな解釈や考え方の中にはCOVID-19の感染拡大という特殊な状況下においてのみ当てはまるものもあれば、そのような状況とは関係なく、平時においても当てはまり得るものもあることから、一度立ち止まってこれらの新たな解釈や考え方の射程を検討した上で、with/afterコロナ時代において、従来の株主総会実務や株主総会のあり方を見直してみる必要があると思われる。特に、会社法上、会社は株主総会の招集にあたり「場所」を決定しなければならないことから(会社法298条1項1号)、株主が会場に来場する物理的会合が前提とされているところ、これらの新たな解釈等により、COVID-19の感染防止のためのやむを得ない措置として株主総会の会場への入場制限を行うことも適法であるとされたことで、COVID-19の感染拡大前から議論となっていた4)株主総会の物理的会合の意義が改めて問われている。

本稿は、株主総会当日の物理的会合について、上場会社で行われた本年の株主総会対応、特に参加できる株主を制限した開催形態である入場制限の許容性に焦点を当てて、今後の上場会社の株主総会を巡る規律のあり方の検討を試みるものである。

まず、舩津教授は、本年の株主総会対応のうち、通常スケジュールのとおり開催するものの、入場制限をかけて物理的会合を実施すること(事実上物理的会合を株主抜きで実施する場合を含む)を選択した会社について、当該入場制限が許容される根拠について検討を加える。事前の議決権行使によって株主総会による意思決定の結論が既に決まっているという物理的会合の儀礼化が考えられるが、物理的会合の場で会社提案を覆そうとする株主(以下「敵対株主」という)からすると物理的会合の存在意義はあるという批判が考えられる。それにもかかわらず、本年の株主総会対応において、入場制限が許容される根拠としては、COVID-19の感染拡大防止のためにやむを得ない措置であることも考えられるが、入場制限をしてまで通常のスケジュールを維持する合理性を説明することは困難であるとする。

次に、舩津教授は、入場制限とセットになった事前の議決権行使の推奨に着目し、少なくとも本年に関する限り、株主の議決権行使の時期を早めるという行動変容を促すことを通じて、敵対株主が期待する数の株主が物理的会合に集まらず、株主総会当日の物理的会合が主戦場になり得ないことについての注意喚起となり、意思決定機関としての株主総会そのもののあり方の変容を促すものであると捉える。そして、書面や電磁的方法による議決権行使等複数の議決権行使の手段が認められ、かつ、大多数の議決権行使が物理的会合以外の手段を通じたものであるという現実の上場会社の株主総会の現状に鑑みて、物理的会合を本来的な意思決定の場と捉える制度設計の合理性は乏しいと断じる。

物理的会合の優位性を自明のものとして捉えない考え方は、COVID-19の感染拡大という特殊な状況を抜きにしても成立し得る議論であり、物理的会合以前の株主と会社との建設的対話に重点を置くコーポレートガバナンスの潮流とも合致する一方で、物理的会合を前提とする株主総会規律は上場会社の株主総会運営に非効率性を生じさせてきたとする。そして、舩津教授は、上場会社の株主総会の特徴(①構成員1人につき1議決権ではなく資本多数決によること、②市場を通じて構成員資格が売買されること、③物理的会合への代理出席が認められていること、④構成員が討議なしに賛否を示す手段が存在していること)に照らし、物理的会合を前提とする会社法の規律の見直しやバーチャル株主総会等の情報技術の発展への対応という観点から、株主総会という意思決定機関に相応しい意思決定ルールを探る作業が求められているとして、「脱・物理的会合」型規律モデルの有用性を説く。

舩津教授が主張する株主総会の「脱・物理的会合」型規律モデルの有用性については、敵対株主による委任状勧誘が行われ、株主総会当日の賛否によって会社提案の帰趨が決する場面等を想定すると異論があり得るかもしれない。しかし、本稿の意義は、COVID-19の感染拡大という特殊な状況下で新たに示された株主総会の運営に関する解釈・考え方が平時においても当てはまるものであるか否かを検討し、自明のものとして捉えられてきた株主総会の物理的会合の意義を改めて問うことが(必ずしも効率的とは言えない)従来の株主総会実務を見直し、将来の株主総会のあり方を考える上で重要であることを示唆する点にある。

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脚注   [ + ]

1. 経済産業省=法務省「株主総会運営に係るQ&A(令和2年4月28日最終更新)」(PDF)、金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について(令和2年4月28日)」(PDF)、法務省「定時株主総会の開催について(令和2年5月15日更新)」等。
2. 日本経済団体連合会「新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた定時株主総会の臨時的な招集通知モデルのお知らせ」(2020年4月28日)等。
3. 「株主総会2020」2020年7月11日付日本経済新聞朝刊13頁参照。
4. 例えば、舩津浩司「会議体としての株主総会の未来を考える-『2018年版株主総会白書』を読んで」旬刊商事法務2186号(2018)4頁参照。

野澤大和(のざわ・やまと)
2004年東京大学法学部卒業。06年東京大学法科大学院修了。07年弁護士登録。08年西村あさひ法律事務所入所。14年Northwestern University School of Law卒業(LL.M.)。14年~15年Sidley Austin LLP(シカゴオフィス)で研修。15年ニューヨーク州弁護士登録。15年〜17年法務省民事局に出向(会社法担当)。19年西村あさひ法律事務所パートナー。主な書籍・論文として、「自己株式の取得・処分の事例分析─2019年6月〜2020年5月」資料版商事法務437号(共著、2020年)、「株式交付制度の創設」旬刊商事法務2236号(2020年)、「社債の管理のあり方の見直しと実務対応」旬刊商事法務2235号(共著、2020年)、「社外取締役の活用等」旬刊商事法務2234号(共著、2020年)、「株主提案権の制限」旬刊商事法務2231号(共著、2020年)、「12月決算企業にみるリスク情報の開示」企業会計2020年6月号(2020年)、『M&A法大全〔上〕〔下〕』(共著、商事法務、2019年)、「武田薬品によるシャイアー買収の解説〔I〕〜〔VI〕」旬刊商事法務2199号2204号(共著、2019年)ほか多数。