(第8回)コロナ危機で膨らむ政府債務(田中理)

コロナ危機とEUの行方| 2020.09.25
2020年に入って突如世界を席巻し始めた新型コロナウイルス感染症は,2020年3月11日にはWHOによってパンデミック宣言され,依然として予断を許さない状況が続いています.このコラムでは,さまざまな立場のEU研究者が,「コロナ危機下のヨーロッパ」がどう動くのか,どこへ向かうのかについて読み解いていきます.(全12回の予定)

感染長期化で追加の財政出動も

コロナ危機の間の失業や倒産を抑制し、国民生活を守るため、欧州諸国は巨額の財政出動を打ち出している。約 10 年前に欧州債務危機、いわゆる2010年欧州ソブリン危機の激震に見舞われた欧州連合 (EU) は、危機克服の過程で財政規律を強化した。だが、過去に例を見ないコロナ危機の特殊事情に鑑みて、当面は「安定・成長協定」を厳格に適用しないことを決定している。EU 内には債務危機の激震地となったギリシャや巨額の政府債務を抱えるイタリアなど、財政基盤が脆弱な国もあり、危機発生当初は大幅な財政悪化と景気の深刻な落ち込みにより、債務返済能力の悪化が不安視されたからだ。

欧州中央銀行 (ECB) が 3 月に巨額の資産買い入れを開始したことで、国債利回りの上昇が抑制され、金融市場の動揺封じ込めに成功した。さらに、5 月には医療、雇用、企業を対象とした 3 つの安全網が整備されたほか、7 月の欧州首脳会議ではコロナ危機からの復興に充てる財政資金を提供する「復興基金 (次世代 EU)」の創設で合意した。加盟国間の意見相違を乗り越え、EU として一体的なコロナ危機対応をまとめたことで、欧州への評価が一変した。これらの事情によって、外国為替市場では EU の単一通貨ユーロの見直し買いが起きている。

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田中理(たなか・おさむ)
第一生命経済研究所主席エコノミスト
1997 年慶應義塾大学法学部卒、日本総合研究所入社、調査部にて米国経済・金融市場を担当。その間、日本経済研究センターに出向。2001年モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現:モルガン・スタンレー MUFG 証券) 入社、株式調査部にて日本経済担当エコノミスト。海外大学院留学 (バージニア大学経済学修士・統計学修士) を経て、2008 年クレディ・スイス証券入社、株式調査部にて日本株担当ストラテジスト。2009 年第一生命経済研究所入社、2012 年より現職。2015〜2020 年多摩大学非常勤講師。
共著に『EUは危機を超えられるか---統合と分裂の相克』(NTT出版)。