(第5回)法セミ2020年8月号の学び方のポイント&例題

Webでも!初歩からはじめる物権法(山野目章夫)| 2020.06.04
本コーナーは、雑誌「法学セミナー」と連動した企画です。
連載に先だって、次回取り扱う内容のポイントと例題を掲載していきます。予習に、力試しに、ぜひご活用ください。そして、「法学セミナー」本誌もあわせてご覧ください。初学者の強い味方となる「初歩からはじめる物権法」、2020年4月号より連載開始です!

(毎月中旬更新予定)

連載第5回の「学び方のポイント」

法学セミナー」の8月号は、連載の第5回をお届けします。

所有権を侵害された人がすることが考えられる権利行使を話題とします。

跨り建物(またがりたてもの)というものを御存知でしょうか。

Aが所有する甲土地とBが所有する乙土地とに跨ってBが所有する丙建物が所在する、としましょう。もちろん、Bが、丙建物を所有することによりAが甲土地に有する所有権を侵害しています。Aが何も主張することができないという話はありえません。

けれど、落ち着いて、いろいろなことを考えなければなりません。まず、Aが勝手に丙建物を取り壊してよいでしょうか。丙建物を全部取り壊すか、越境部分のみをなくす改築をするか、Bが熟考して選択するチャンスも考えてあげなければなりません。さしあたりは、Bに対し、なんとかせよ、と求めるところから話が始まります。

けれど、Bの所在が不明であるなどしてBの行為を請求することが困難である事情があるとしたら、どうでしょうか。所在不明といいますが、いろいろな物語があるでしょう。Bはすでに亡くなっていて、お子さんたちがどこに住んでいるか、連絡が難しい、というような場合も、実質的には“Bの所在不明”と異なりません。そうしたときは、Aが自ら壊すことを認めざるをえないかもしれませんね。

けれど、と、もう一つ行きましょう。Aが取り壊すことをするには費用を要します。その費用は、結局、Aが負わなければなりませんか。

政府が実施している「土地問題に課する国民の意識調査」によりますと、「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産か」という問いを肯定する回答は、1993年度に61.8パーセントでしたが、その後に減り続け、このところ30パーセント余を推移していました。ついに2019年度には30パーセントを割り、27.1パーセントになっています。Bのお子さんたちが乙土地や丙建物に関心をもたず、ほったらかしにしているなりゆきも、ありうる話です。くわえて、地域や親族の人のつながりが薄らいでいることが、珍しくありません。AとBとのおつきあい、BとBのお子さんたちとのきずなも、あまりなくなっていたかもしれません。

連載のこの回は、こうした時代が抱える問題を皆さんとともに考えてみます。

連載第5回の「例題」

【例題1】
Aの居宅とBの店舗とは隣り合って所在する。Bが店舗の看板を補修した際の落度のため看板が落下してAの建物の屋根を破損するおそれが大きい。Bは、店舗をCへ売って所有権の移転の登記をした。Aは、BとCのいずれに対し落下防止工事を請求することができるか。

【例題2】
占有訴権の制度は要らない――というニヒルな意見を述べる人がいる。なぜなら、所有者は、所有権に基づく請求権を行使すればよいから。

この意見は、どのように考えるべきであるか。

【例題3】
動産甲は、Aが所有し、Aが占有していた。Bは、動産甲を強奪した。怒ったAは、動産甲を実力で奪回した。

(1) 私たちは、A・Bのいずれに対し、駄目出し(だめだし)をすることがよいか。

(2) Bは、Aに対し、占有回収の訴えを提起することができるか。

【例題4】
Aが占有している物を所有者のBが奪い取った。

(1) Bは、Aに対し、所有権に基づく返還請求権を行使することができるか。

(2) Aは、Bに対し、占有回収の訴えを提起することができるか。


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山野目章夫(やまのめ・あきお 早稲田大学教授)
1958年生まれ。亜細亜大学法学部専任講師、中央大学法学部助教授を経て現職。
著書に、『不動産登記法 第2版』(商事法務、2020年)、『ストーリーに学ぶ 所有者不明土地の論点』(商事法務、2018年)、『詳解 改正民法』(共著、商事法務、2018年)、『新・判例ハンドブック1、2』(日本評論社、2018年)、『物権法 第5版』(日本評論社、2012年)など。