(第7回)偽反復の罠 — あなたも陥っていませんか?

現実を「統計的に理解する」ための初歩の初歩(麻生一枝)| 2020.05.15
私達が生きる現実社会の多くの問題の理解には,種々の数値の測定や観察とそれを「統計的に処理する」作業が欠かせません.毎日のニュースでもありとあらゆる機会に「数値」が出てきますが,その意味をきちんと考えたり信憑性を疑うことは、必ずしもなされていないようです.この連載では,誰でも知っておいてほしい統計についての基本的な考え方や, 統計にまつわる誤解や陥りやすい罠を紹介していきたいと思います.(全12回の予定)

(毎月中旬更新予定)

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前回紹介した「偽反復」という用語は、生態学分野の学術誌に $1984$ 年に発表された一篇の論文1)にその端を発する。いくつもの学術誌に拒否されたのち、ようやく Ecological Monograph 誌に掲載されたという、いわくつきの論文である。他雑誌が掲載を拒否したのは、当時の生態学分野の大御所たちの論文を名指しで批判したからではないかと憶測されている。

互いに独立でない反復体を反復体とみなして、独立性を前提とする統計解析を行うことの問題点そのものは、それ以前の $1970$ 年代から複数の学者によって指摘されていたようだ。やんわりとした批判では改善が見られないので、論文を名指しで指摘し、かつ、偽反復という用語を定義して、問題を明確化したのがこの論文である。

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脚注   [ + ]

1. Hurlbert SH. (1984) Pseudoreplication and the Design of Ecological Field Experiments. Ecological Monography 54(2): 187-211. https://doi.org/10.2307/1942661

麻生一枝 成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会)など.