『憲法論点教室[第2版]』(編:曽我部真裕・赤坂幸一・新井誠・尾形健)

一冊散策| 2020.04.02
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

第2版はしがき

本書は、法曹を志望して法科大学院や法学部で学ぶ「普通の」学生を対象に、迷いやすい学習上のポイントにつきコンパクトかつ明確なアドバイスを与えることを目的として、2012年に出版された。幸いにも多くの読者に迎えられ、このたび第2版を出すことができることは、編者にとって望外の喜びである。

初版からの変更点としては、学生からのヒアリングを踏まえ、各章のさらなるブラッシュアップを図ったほか、いくつかの項目を入れ替え、「判例の捉え方」や「憲法論の文章の書き方の基本」についての解説を加えたことである。また、「実践編」として、具体的な事例問題に対する学生の答案例をもとに、どのような視点で事例問題を扱えば良いのか、またどのような観点から学修を進めるとより効果的なのかについて、座談会形式で検討する1章を新設した。本書の各章で学ぶ事柄が、実際の答案作成の段階でどのように具体化されることになるのか、より実践的な形で学修を一歩すすめるためのよすがとなれば幸いである。

「紙上オフィスアワー」をめざす本書の特性上、初版と同じく、学生の声を聞くことにはとくに留意した。講義その他を通じてフィードバックをくれた学生諸君には改めて感謝したい。その過程では多くの学生の助力を得たが、第2版の作成にあたり、とくに継続的に関与してくれた学生については、下に氏名を記載して、とくに感謝の念を表する次第である。

最後に、第2版の刊行に当たっては、初版と同じく、日本評論社の柴田英輔氏の周到なご配慮をいただいたことに感謝申し上げたい。

2019年12月

曽我部真裕、赤坂幸一、新井誠、尾形健

第2版の制作に協力していただいた方々

(50音順、敬称略)
杉田夕花、田島駿熙(以上、九州大学法科大学院)、月吉都、松下陸、弓場浩子、綿屋伊織(以上、九州大学法学部)

(なお、所属先は本書企画開始時のもの)

初版はしがき

本書の狙いを一言でいえば、主として「普通の」法科大学院の学生や、法科大学院を目指す学部学生が誤りやすいポイント、あるいは迷いやすいポイントについて、できるだけ明快に問題点を整理し、また、単に整理するだけではなく、「では、どう考えればよいか」という考え方の方向性を示してみようということである。いわば憲法FAQ(Frequently Asked Questions)、あるいは紙の上でのオフィスアワーとでもいえるものを目指している。

本書の執筆者の多くは、法科大学院で憲法の講義を担当している若手の教員であり、教育経験が必ずしも豊富ではない中、法科大学院の講義を担当することとなり、日々試行錯誤を繰り返している。そのような過程において、本書の刊行を提案した動機との関係で強く感じていることを2点ほど挙げて、上記の趣旨を敷桁してみたい。

第1に、法科大学院生は総じてモチベーションが高く、講義後も質問者の列ができることもしばしばであるが、複数の学生から同様の質問があることも珍しくなく、多くの学生が疑問に思う点にはそれなりの共通性があるように感じられる。そこで、このような「よくある質問」のコンパクトな解説を提供できれば、学生の学修の便宜に資することと思われる。

第2に、上述のように毎回の講義後の質問はそれなりに多いのであるが、質問に来る顔ぶれはしばしば固定されているということである。推測であるが、多くの学生は、疑問を覚えつつも質問に行くことを躊躇し、その結果疑問を抱えたままに終わっているのではないだろうか。このような学生にとっても、「よくある質問」のコンパクトな解説を提供できれば有益だろう。

ところで、法科大学院時代に入り、憲法の教育のあり方は様変わりした。この点は他の分野でも同様であろうが、憲法においては、教育のあり方の変容が、研究内容にも大きな影響を与えた点が特徴的である。とりわけ、憲法判例の分析について、外在的な批判から、内在的な理解を目指す方向へと大きくシフトしている。また、憲法研究者自身も具体的な事案の分析に従事する必要性が増したことで、分析の枠組みも急速に精緻化してきた。すでに、このような傾向を反映した法科大学院生向けの優れた教材は多数刊行されており、学生の間で「定番」化したものもいくつもあるが、今述べたような憲法分野の特徴により、法科大学院生向けの書籍や学生向け雑誌の論考の水準と、最先端の研究との距離は非常に近いものとなっているように思われる。これは、一部の優秀な学生にとっては非常にエキサイテイングなことであろうが、多くの「普通の」学生にとっては困惑の種になっていることも否めない。

そこで、本書は、法科大学院時代の憲法教育に対応したものであることを前提としつつも、近年公刊の相次ぐ、様々な意味で「水準の高い」憲法教材群とは一線を画し、あくまで「普通の」法科大学院生がもう一歩理解を深めることのできる教材を目指した。もちろん、上記のような憲法の研究教育における変化は、学部学生にも影響のないはずはなく、本書は法科大学院を目指す意欲的な学部学生にとっても参考になるはずである。

本書が学生のニーズの高い演習書形式ではなく、端的に論点を取り上げるスタイルをとったのも、上記のような基本的なコンセプトから、できるだけシンプルに問題点を提示し、解説したいという考えがあったからである。参考文献についても、できるだけ「普通の」法科大学院生が参照しやすいものを、点数を限定して掲げるようにし、さらに、事例演習については、参考文献とは別に紹介するようにした。

こうした本書の性格上、学生の声を聞くことには特に留意した。具体的には、まず、編者4名の所属先の法科大学院生(及び一部は学部学生)からヒアリングを行い、全体的なコンセプトや取り上げる項目に反映させた。また、個別の項目の内容についても、草稿段階で多くのコメントを徴し、あるいは実際に講義の参考文献として使用してフィードバックを得、これらを反映して確定稿を作成するという方法をとった。こうした過程で多くの学生の協力を得たが、特に継続的に関与してくれた学生については、右に氏名を記載して感謝の意を表する次第である。彼(女)達の多くは、本書の企画の際には現役の法科大学院生であったが、すでに新しいステージに踏み出している者も少なくない。編者の不手際により、彼(女)達に本書を利用してもらえなかったのはまことに残念であるが、本書が後輩達の憲法学修の一助となり、将来的に本書の更なる充実に力を貸してくれることがあればこれに勝る喜びはない。

最後に、本書の刊行にあたり、日本評論社の柴田英輔氏の尽力に感謝したい。氏の時宜を得た進行管理がなければ、この時期に本書を刊行することはできなかったのは確実である。
2012年8月

曽我部真裕、赤坂幸一、新井誠、尾形健

本書の制作に協力して頂いた方々
(50音順、敬称略)
安部紳一郎(広島大学法科大学院)/石井一旭(京都大学法科大学院)/伊藤慎吾(九州大学法科大学院)/大嶋真理子(京都大学法科大学院)/岡上貢(九州大学法科大学院)/奥忠憲(同志社大学法学部)/奥村暁人(京都大学法科大学院)/加藤真(同志社大学法学部)/儀保唯(広島大学法科大学院)/桐山直也(京都大学法科大学院)/黒木宏太(京都大学法科大学院)/合六水希(九州大学法科大学院)/佐藤啓介(京都大学法科大学院)/城石惣(京都大学法科大学院)/末安大地(九州大学法科大学院)/鈴鹿愛奈(同志社大学法学部)/武石千慧(広島大学法科大学院)/田中謙太(同志社大学法学部)/坪内吾子(九州大学法科大学院)/寺田悠亮(京都大学法科大学院)/堂前圭佑(広島大学法科大学院)/中倉康宏(九州大学法科大学院)/中津崇晶(同志社大学法学部)/中山太志(広島大学法科大学院)/西村幸太郎(広島大学法科大学院)/藤田和也(京都大学法科大学院)/別城尚人(広島大学法科大学院)/前野勇気(同志社大学法学部)/宮村教平(同志社大学法学部)/安仲亮輔(九州大学法科大学院)/山田貴之(広島大学法科大学院)/和田康隆(九州大学法科大学院)/渡邊満久(京都大学法科大学院)

(なお、所属先は本書企画開始時のもの)

目次

1  違憲審査基準論の意味と考え方…尾形 健
2  違憲審査基準の適用の仕方…横大道聡
3  審査基準論と三段階審査…松本哲治
4  判例の捉え方…赤坂幸一
5 最高裁判例における利益衡量論…尾形 健
6 適用審査と適用違憲…山本龍彦
7 行政裁量と判断過程審査…山本龍彦
8 立法裁量の統制―判断過程審査を中心に…山本龍彦
9 合憲限定解釈…赤坂幸一
10 部分違憲…曽我部真裕
11 公共の福祉…曽我部真裕
12 人権の享有主体性…上田健介
13 私人間効力…新井 誠
14 間接的制約、付随的制約…曽我部真裕
15 包括的基本権…田近 肇
16 平等…新井 誠
17 政教分離…田近 肇
18 パブリックフォーラム論…中林暁生
19 財産権…松本哲治
20 職業選択の自由…上田健介
21 生存権保障…尾形 健
22 法律と条例の関係…赤坂幸一
23 法律の概念、個別的法律…毛利 透
24 客観訴訟と司法権…毛利 透
25 憲法訴訟としての公法上の当事者訴訟(確認訴訟)…興津征雄
26 団体内部紛争と司法権…田近 肇
27 憲法論の文章の書き方の基本…上田健介
28 当事者主張想定型の問題について…松本哲治
憲法論点教室・実践編…赤坂幸一、片桐直人

書誌情報