(第18回)重次郎の事件についての疑問点

渋谷重蔵は冤罪か?―19世紀、アメリカで電気椅子にかけられた日本人(村井敏邦)| 2020.02.26
日本開国から24年、明治の華やかな文明開化の裏側で、電気椅子の露と消えた男がいた。それはどんな事件だったのか。「ジュージロ」の法廷での主張は。当時の日本政府の対応は。ニューヨーク州公文書館に残る裁判資料を読み解きながら、かの地で電気椅子で処刑された日本人「渋谷重蔵」の事件と裁判がいま明らかになる。

(毎月下旬更新予定)

重次郎の事件については、重次郎が被害者を殺害したという点については、まったく争いがない。争点は、なぜ、どのような状況で行為が行われたかである。法廷で証言した検察側証人たちは、宿主の岩本が重次郎ではなく被害者に船を斡旋したことに怒って、重次郎は被害者を刺したと証言した。これに対して、重次郎は、船の斡旋についてのトラブルはまったくなく、自分以外の者は部屋の中でサイコロ賭博をしており、自分が酔って被害者に依りかかったのに怒った被害者が重次郎を殴り、その後に被害者が重次郎に対して凶器のようなものを向けてきたので、それに対抗するために近くにあった刃物を持って防衛したと述べ、正当防衛を主張した。

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村井敏邦(むらい・としくに 弁護士・一橋大学名誉教授)
1941年大阪府生まれ。一橋大学法学部長、龍谷大学法科大学院教授、大阪学院大学法科大学院教授などを歴任。『疑わしきは…―ベルショー教授夫人殺人事件』(日本評論社、1995年、共訳)、『民衆から見た罪と罰―民間学としての刑事法学の試み』(花伝社、2005年)ほか、著書多数。