偶然に対する態度(瀧川裕英)

法律時評(法律時報)| 2019.12.04
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」91巻13号(2019年12月号)に掲載されているものです。◆

1 台風の被害

今年も台風により、多数の人が被災した。台風の発生と消滅、台風の勢力と進路は、現在の科学技術をもってしても、人間のコントロールを超えている。人間の力が及ばない自然の威力によって、人生は翻弄される。

しかしながら、台風による被害は、人間のコントロールを完全に超えているわけではない。台風の勢力を弱めたり進路を変えたりすることはできないが、台風の被害については事前の備えが可能である。各個人は、非常持ち出し品をそろえておいたり、避難場所を確認したりすることができる。政府は、河川の氾濫を防ぐために堤防を補強したり、土砂災害を防ぐために整備や工事をしたりすることができる。

気候変動について、緩和策と適応策という対比が使われる。温室効果ガスの排出量を削減することで気候変動を緩和するのが前者であり、気候変動を所与としてその悪影響を軽減するのが後者である。この対比を用いていえば、台風について、緩和策はないが適応策はある。台風を消滅・弱体化する方策はないが、台風の被害を回避・軽減する方策はある。そうであるがゆえに、台風による被害は、「ああしておけばよかった」という後悔の対象となる。

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