(第1回)意外と難しい利益相反の整理と対応

民事弁護スキルアップ講座(中村真)| 2020.01.16
時代はいまや平成から令和に変わりました。価値観や社会規範の多様化とともに法律家の活躍の場も益々広がりを見せています。その一方で、法律家に求められる役割や業務の外縁が曖昧になってきている気がしてなりません。そんな時代だからこそ、改めて法律家の本来の立ち位置に目を向け、民事弁護活動のスキルアップを図りたい。本コラムは、バランス感覚を研ぎ澄ませながら、民事弁護業務のさまざまなトピックについて肩の力を抜いて書き連ねる新時代の企画です。

(毎月中旬更新予定)

1 はじめに

「医者の不養生」という言葉がありますが、「弁護士の法不適合」ともいうべき事態がよく見られます。弁護士業務を行う上で、当然理解し押さえておかなければならない知識が疎かになっているために、依頼者や相手方等利害関係人との間で紛議を生じ、悪い場合には懲戒対象とされてしまう。

その結果、自分の業務処理内容やそれによって生じた結果を正当化しようとし、事実に合わせてルールを解釈しようとしてしまうということが起こりえますが、存在するルールに抵触しないように事実を積み重ねていくというのが法適合を考える上で本来あるべき姿であるのは言うまでもありません。

そこで、第1回となる今回は、弁護士が受任段階で検討しておくべき利益相反の問題について検討したいと思います。

2 弁護士の倫理に関する規律

あなたが日弁連から送られてきた書類や冊子を脊髄反射で捨ててしまうような破天荒な弁護士生活を送っているのでない限り、あなたの事務所の書棚にはきっと日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著の『解説 弁護士職務基本規程 第3版』(以下、『解説』といいます)という緑色のB5版の冊子があるはずです。

地味すぎる装丁と堅いタイトルで見過ごしがちですが、日弁連主催の一般弁護士倫理研修でもテキストとして用いられる重要な書籍です。弁護士たるもの、その内容には精通しておかねばなりません。

とはいうものの、弁護士倫理の問題は、どのトピックについても一定のグレーゾーンがあり、明確に断じることが難しいという特質があります。『解説』自体、日弁連の弁護士倫理委員会編著でありながら、そこに記載されている内容が「日弁連の公式見解を叙述したものではない」としている点(第3版はしがき)もこの手の問題の議論の難しさを表しています。

これには、弁護士業務を行う上で想定される種々の倫理問題について未だ法的・実務的な判断が定まっていない中で、いまや約4万人に達する世の弁護士にできる限り実用に耐える指針を踏み込んで指し示そうとした日弁連倫理委員会の先生方の思いやりだと個人的には理解しています。事実、『解説』の内容は愛と思いやりに満ちています。それは同冊子が、あなたという法律家を弁護過誤や懲戒といったリスクから遠ざけたいという一貫したスタンスで作られているからです。「愛」と「思いやり」以外に、このような日弁連の姿勢を正しく表す言葉を私は知りません。あと、巻末に各種規程のほか、関連する規範や会則が掲載され、素晴らしい索引まで付いているのに、弁護士であるというだけで無料で頒布されるという点も心を揺さぶります。

弁護士倫理の正しい理解を欠いたまま実務に出るというのは、さながらスカイダイビングでハーネスのロックを確認せずにセスナから飛び降りるようなものです。「俺はどうしてもそうしたいんだ!」という一部の人の意思は尊重してあげるべきですが、そのせいで下を歩いている誰かに当たったらその人が気の毒ですし、社会で「スカイダイビングは人が死ぬ」という認識が一人歩きするのも困りものです。

やはり、我々弁護士は、弁護士職務基本規程の内容に精通し、一人ひとりが弁護士の職務に対する社会的信頼を維持するよう努めなければならないというものです。

3 弁護士職務基本規程の法的な位置づけ

鋭敏な法的感覚をお持ちのあなたなら、弁護士法と似たような規程を多く持つ弁護士職務基本規程がわざわざ設けられている意味について、気になる瞬間がきっとあるはずです。

両者を見比べていて気付くのは、どちらも弁護士の立場や心構え、業務の行い方について理念とともに種々のルールが定められているという点です。ただし、一部の条項はほぼ共通しているものの、弁護士法は弁護士の権利義務や抽象的・一般的な定めが多い一方、規程はより詳細、具体的な定めを多く置いており、特に「○○してはならない」という禁止ルールが非常に多く定められていることに気付きます(また、世の中に数多くある規範の内に、努力規程と制限・義務規程を明示的かつ丁寧に書き分けているものはそう多くあません。規程82条参照)。

では、この弁護士職務基本規程、法的にはどのような位置づけになるのでしょうか。

そもそも、弁護士法はその56条(懲戒事由及び懲戒権者)1項で「弁護士及び弁護士法人は、この法律又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。」とし、弁護士の懲戒事由を定めています。また、同法46条(会則)の1項では、「日本弁護士連合会は、会則を定めなければならない。」としています。

これを受けて、日本弁護士連合会会則というものが定められているのですが、その6条(会規及び規則)では「本会は、この会則を実施し、その他法令に基づいて必要な措置を行うため、会規又は規則を定める。」としており、実は弁護士職務倫理規定(及びその前身となる「弁護士倫理」)もこの「会規」に当たります。

先に見たように、弁護士職務基本規程自体は、モーセの十戒のように「○○してはならない」という定めでほぼ埋め尽くされているわけですが、その中にはそれに違反した場合の定めは置かれていません。要するに、弁護士に対する懲戒の根拠は、どこまで行っても弁護士法56条1項なのですが、日弁連の会規たる弁護士職務基本規程の定めは弁護士に「その品位を失うべき非行があった」(法56条1項)か否かを判断する際の判断要素、指標となるという関係にあります。

4 利益相反に関するルール

弁護士職務基本規程の定めのうち、具体的に利益相反に関わる重要な条項として27条、28条の2つがあり、これを以下見ていきます(なお、共同事務所(規程57条)、弁護士法人(規程63条)での規律については別の機会に譲ります)。

(1)規程27条(職務を行い得ない事件)

弁護士職務基本規程の27条に「職務を行い得ない事件」として、弁護士が行ってはいけない事件が列記されています。読めば理解できる内容ですが、重要なのでここで簡単に確認しておきましょう。

一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

「賛助」するというのは、「協議を受けた当該具体的事件について、相談者が希望する一定の結論(ないし利益)を擁護するための具体的な見解を示したり、法律的手段を教示し、あるいは助言すること」をいいます(『解説』80頁)。

判例では、「事情を聴取した結果具体的な法律的手段を教示する段階」に至った場合には「賛助し」に該当するとしており(最判昭和33年6月14日集民32号223頁)、法的解決に向けたアドバイスをするということになると、これに当たってきます。

後段は「依頼を承諾し」た場合ですから、単に法律相談に応じる旨述べただけの段階ではこれに当たりません。

ここで、同一性が問題となる「事件」ですが、これは訴訟物や手続の同一性というように限定的に捉えられるものではなく「社会生活において事実上利害対立を生ずるおそれのある場合を広く包含する」とされており、民事事件相互、刑事事件相互だけでなく民事事件と刑事事件の間でも成立しうる概念です。

二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの

2号事由は、「賛助」も「依頼の承諾」もしていないけれども、それと同一視できる程度に相談者・依頼者との関係が一定程度に進展していた場合を職務禁止の対象とする趣旨です。

三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件

3号事由に関して重要な点がいくつかあります。

一つは現に「受任している」事件であることであり、終わった事件は対象になりません(ただし、その場合でも、秘密保持義務(規程23条)の問題は当然残ります)。

もう一つは、「相手方からの依頼」である場合で、相手方から別の人物の依頼を受けるよう紹介を受けたような場合は対象外です(もっとも、相手方の親族等で相手方と同一視できる者からの依頼の場合、実際には相手方が弁護士費用を負担するといった場合は、実質的な利益相反関係が生じるため除かれると理解されています)。

さらに、規程27条ではこの3号事由についてのみ、「受任している事件の依頼者が同意した場合」、職務禁止の制限が解かれることとなります(規程27条但書)。

ともあれ、ある事件で敵対する立場の者からの事件を受けるというのは、今の依頼人の同意があるか否かにかかわらず、受任者を苦しい立場に追い込むことになることが多いので、この但書の禁止解除が問題となるケースはそれほど多くはないように思います。

四 公務員として職務上取り扱った事件

典型的なのが、裁判官や検察官が退官して弁護士となった後、任官時に取り扱った事件と同一の事件について受任する場合でしょうか。

民事・家事の調停官も非常勤裁判官という公務員なので、(次の5号ではなく)この4号の規律に従うことになるでしょう。

国家公務員法、地方公務員法に基づく公務員や特別職の公務員もこの「公務員」に含まれますから、最近でいうと教育委員会や労働委員会の委員として選任された弁護士が、そこで取り扱った事案について弁護士として受任するような場合にもこの問題を生じます。

五 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件

調停委員や弁護士会その他の団体のADRのあっ旋委員などで取り扱った事件が想定されています。これもわかりやすい話ですね。

(2)規程28条(職務を行い得ない事件)

続く規程28条でも再び「職務を行い得ない事件」という条項が設けられ、27条の場合とは少し違った視点から4つの類型が定められています。

一 相手方が配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である事件

ここでいう「配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族」というのは、勿論、依頼を申し込まれている弁護士自身の関係者を指しています。ある日、事務所に現れた相談者から依頼を申し込まれた事件が、自分の妻に対する損害賠償請求だった、というのは世の中によくあることなのかどうなのか、まだまだ社会経験の乏しい私には想像もつかない領域の問題です。

なお、面白いことにこの1号は「依頼者が同意した場合」、受任の禁止が解除されるとされています。

「私はいいんですが、その相手方、私の妻なんですよ。それでもいいですか?」と依頼者に尋ねる状況がはたしてあるのかないのか、これまた高度な想像力が求められる問題です。事件の相手方だから当然と言えば当然なのですが、「配偶者」の側の承諾は必要とされていない点も事態のシュールさに拍車を掛けています。

なお、利益相反の問題は、全体を通して「実質的な利益相反関係があるか否か」が問題とされる場面が多いのですが、この28条1号の「配偶者」は法律上の配偶者をいい、内縁関係の者を含まないという形式的な理解が一般的です。また、「直系尊属」、「兄弟姉妹」、「同居の親族」も「字義どおりに解釈すべきである」とされています(『解説』89頁)。例えば、盃を交わした兄弟分はこれに当てはまらないことになります。

たとえ内縁関係でも10年や20年婚姻とそう変わらない実態があるのであれば、実質的な利益相反関係は生じそうなものですが、ここでは形式的な枠組みが議論の出発点になっています。

27条、28条を通じて、「実質的な利益相反関係の有無」は、「形式的には利益相反関係に該当するけれども実質的には利益相反関係がないから問題ない」という形で取り上げられる場面が多いようです。

二 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件

「受任している」、すなわち現に事件を受けている依頼者や自分の顧問先を相手方とする事件も「職務を行ってはならない」とされています。

スポットでの依頼者はともかく、大恩ある(ことが多い)自分の顧問先に対して敵対する行動を起こすという、全く向こう見ずな反逆精神は、既にRockと言って差し支えありません。

ここでも、「依頼者及び相手方(つまり、今受けている依頼者や顧問先)の同意」があれば職務禁止のルールが解除されるというのですが、こうなるともはやプログレッシブ・ロックに通じる難解さがあります。

この辺りは、規程の条項を読んでいても面白さしかありません。

三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件

ややエキセントリックな定めが2つ続いたところで、少し落ち着いた感のあるのが依頼者同士の利害対立がある場合を規制の対象とする28条3号です。

委任状を出してもらった複数の者の利害が相反するとき、弁護士はそのいずれかの利益を図る行動に出るおそれがありますし、逆にそれを避けようとすると途端に難しい立場に置かれることになります。

典型的なのが、複数の相続人間の遺産分割交渉事件で、何組かのグループに分かれて争っているようなときに複数の相続人から委任を受ける場合でしょうか。このような状態は実務的にはかなり多いのですが、同じ「グループ」を構成している相続人間でも、特別受益や寄与分、具体的な遺産の分け方を巡って利害が対立する場面というのは少なくありません。

こういった場合、やはり規程28条3号の事由に該当することになるのですが、例えば、グループを組んでいる相続人間で利益相反が顕在化していない場合には問題ないという理解もこれまた一般的で、遺産分割の当事者である複数の相続人を一人の弁護士が受任しているというケースは珍しくも何ともありません。

これは、同号について、「その依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意」していれば職務禁止のルールが解除されるという点を根拠にしているとみることができます。

結局のところ、「利益相反関係が顕在化していなければオッケー」ということなので、受任の段階で「今後、依頼者間で利害対立が生じるようになった場合には辞任することになる」旨を説明しておく必要があるということです。

四 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件

依頼者の利益と弁護士自身の利益が相反するとき、弁護士は依頼者の犠牲のもとに自分の利益を優先してしまう恐れが出てきますから、こういった場合も受任の禁止の対象にしておくということは、合理的であると言えます。

どういったケースがこれにあたるのか、これはある程度極限的な事例を考える必要がありそうです。

『解説』では、「弁護士自身が多数の株式を有する上場企業を相手方として多額の損害賠償を提起しようとする者から当該事件を受任し、その訴訟の帰趨によっては自己の資産たる株式の価値が下がるような場合」、「弁護士自身が事務所や自宅を賃借している建物賃貸借から委任を受けて、当該建物にかかる別の賃借人に対する賃料増額請求の裁判を受任するような場合」など、壮大であるかユニークなケースが挙げられています(『解説』93頁)。

本来、受任弁護士がその業務処理に手心を加えているようなケースでは、そのこと自体を問題とすることが考えられますが、実際には依頼者の立場でそれを事後的に証明して責任追及することは困難が伴います。そういう意味で、構造的な規制を用意し、弁護士に自発的な回避を求めるというルール作りには合理性があります。

さて、この4号事由についても、依頼人の同意があれば職務禁止が解除されるとあります。「この事件、あなたが損すれば私は得をし、あなたが得をすれば私が損する関係にあるのですが、それでも問題ないですか?」と尋ねるということでしょうか。

この場合も、仮に依頼人の同意があったとしても、実際の事件処理で難しい判断を迫られることになるでしょうから、結局のところ、どれだけ実益があるのかは難しいところですね。

(3)まとめ

以上に見たように、「職務を行い得ない事件」を定めているものの、規程27条は同一の事件単位で利益相反となる場合を定めているのに対し、同28条は「事件単位の同一性」というくくりを離れ、依頼者と弁護士自身、あるいは他の依頼者との関係に着目して利益相反となる場合を画そうとするものです。

いずれの条項も当事者の利益保護のほか、弁護士の職務執行の公正の確保、弁護士の品位と信用の確保という点に趣旨があるものの、27条の3号と28条の各号では、実際に不利益を受ける可能性のある者の同意がある場合には職務禁止が解除されます。これらの規程がそもそも依頼者等同意を求められる者の保護に第一義的な趣旨があるからと説明されます。

そして、これらの「同意」については事前に、その同意権者に利益相反状態にあることの説明を正しく行った上で得ておく必要があるとされています(日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第5版』(弘文堂、2019年))。

つまり、少なくとも「追認」はこれら規定上の「同意」には当たらないことになります。

もっとも、事前の同意がなく事後的にそれら同意権者の追認といえる対応があった場合には、そのこと自体が「その品位を失うべき非行があった」(弁護士法56条1項)といえるか否かの判断要素となることまで否定されるものではないと考えられます。

5 おわりに

以上に見たように、弁護士職務基本規程上、弁護士が受任段階で検討しておくべき利益相反の職務執行に関する規律が定められています。

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中村真(なかむら・まこと)
1977年兵庫県生まれ。2000年神戸大学法学部法律学科卒業。2001年司法試験合格(第56期)。2003年10月弁護士登録。以後、交通損害賠償案件、倒産処理案件その他一般民事事件等を中心に取り扱う傍ら、2018年、中小企業診断士登録。現在、民事調停官として執務する傍ら、大学院生として研究にも勤しむ身である。

著者コメント 弁護士の民事弁護スキルアップ講座の第1回目となる今回は、導入にふさわしく、弁護士職務基本規程に定められている利益相反に関する規律について取り上げました。次回以降も、民事弁護スキルの向上という見地から種々のトピックについて取り上げていきたいと思います。