“あたりまえの生活”をめぐって:児童養護施設(楢原真也)

こころの現場からセレクト(こころの科学)| 2019.09.25
心理臨床、医療、教育、福祉、司法など、対人援助にはさまざまな「現場」があります。「こころの現場から」は、そうした臨床現場の風景をエッセイという形で紹介するコーナーです。雑誌「こころの科学」にこれまで掲載されたもののなかから、こころの科学編集部がいま届けたい記事をセレクトして転載します。

(奇数月下旬更新予定)

◆この記事は「こころの科学」196号(2017年11月)に掲載されたものです。◆

児童養護施設(以下、施設)では、何気ない日常の繰り返しが子どもたちを癒し、育んでいく。私のような心理職が行う面接にもそれなりに意味や効果はあるのかもしれないが、日々の生活に勝るものはない。

毎日の生活のありようや養育の質は何より大切だが、「これが正解」とはっきり提示できない性質のものでもある。この領域の指針である『児童養護施設運営指針』では、食事の心配がなく、ゆっくり休める場があり、不安やつらいことがあれば話を聞いて慰めてもらえるといった「あたりまえの生活」を保障することの重要性が述べられている。毎日の衣食住に事欠き、自分の考えや感情を受けとめてもらえる体験に乏しいなかで育ってきた子どもたちにとって、こうした環境が大切であることは言うまでもない。しかし、生活の細部を追及していくと、一人ひとり生まれも育ちも違う私たちが“あたりまえ”を共有していくことは、時に困難な作業になる。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について