(第12回)婚外子相続分差別と遺産分割(常岡史子)

私の心に残る裁判例| 2019.07.03
より速く、より深く、より広く…生きた法である“判例”を届ける法律情報誌「判例時報」。過去に掲載された裁判例の中から、各分野の法律専門家が綴る“心に残る判決”についてのエッセイを連載。
判例時報社提供】

(毎月1回掲載予定)

婚外子相続分差別・最高裁判所大法廷違憲決定

1 民法900条4号ただし書前段の規定と憲法14条1項

2 民法900条4号ただし書前段の規定を違憲とする最高裁判所の判断が他の相続における上記規定を前提とした法律関係に及ぼす影響

最高裁判所平成25年9月4日大法廷決定

【判例時報2197号10頁掲載】

相続の場面では、しばしば被相続人をめぐる家族の感情や経済的な思惑が複雑に交錯し、時に激しい対立を生む。特に被相続人が法律婚による家庭とは別に婚姻外の家族を有していたときは、事態はより深刻になり、遺産の分割について当事者らの協議による解決が望めない場合も少なくない。そこで、司法に手助けを求め、家庭裁判所の調停や審判による解決を探ろうということになる。その場合、裁判規範となる法律自体が同じ被相続人の子どもの中で相続分に区別を設けていたとしたらどうであろうか。一被相続人の遺産争いから、憲法14条1項の平等原則違反による憲法訴訟へと問題は一気に拡大する。

婚外子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定める民法900条4号旧ただし書前段について、最高裁として初めて判断を下した平成7年7月5日大法廷決定(判例時報1540号3頁)は、この規定を合憲とした。ただし、そこには5名の裁判官による反対意見が付されていた。その後も同規定の違憲性を問う裁判が繰り返され、高等裁判所のレベルでは平成22年以降違憲判断が続いていた。このような動きの中で、本大法廷決定は同規定が憲法14条1項違反であると判示し、この問題に決着をつけた。それに従って、民法900条4号からただし書前段が削除された(平成25年法94号)。さらに、相続という人々の生活に密着した制度に関する違憲決定であったため、すでに行われた遺産分割等への影響を避け、法的安定性を考慮して、本大法廷決定は違憲判断の遡及効に制限をかけた。

本大法廷決定に対しては、合理性の基準を始め憲法判断における理論面での考察が抜け、「事案に応じた枠組みでの判断」(調査官解説)がされたことに対する批判も強い。また、社会状況や国民の意識の変化、諸外国の動向、国際条約の下での勧告等を並列的に挙げて立法事実が変化したとする点も、決定性に欠けるのみならず、時代や社会の更なる変化による判断変更の可能性を内在させるとの指摘もある。しかし、本大法廷決定は、それがゆえに家族法の分野に大きなインパクトを与えたとも言える。本大法廷決定は、婚外子の相続分差別規定の存在自体がスティグマになりうるとも述べるが、この言辞とあわせ上述のような論法は、その後の夫婦別姓訴訟や同性婚訴訟でも、同様の論理で憲法違反を追及できることを示す。

一方、本大法廷決定が、民法の家族法に関する初めての違憲決定(法令違憲)であるとともに、相続という社会の基本的制度につき憲法違反があると判断したことは、政治の関心を法律婚とその家族特に妻の保護に向けさせ、相続法の改正を促した。本大法廷決定を契機に今後家族法がどのように展開して行くのか、研学を続けて行こうと思う。

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常岡史子(つねおか・ふみこ 横浜国立大学国際社会科学研究院教授)
1958年生まれ。帝塚山大学法政策学部教授、獨協大学法学部教授を経て現職。
著書に、『実務精選120 離婚・親子・相続事件判例解説』(共著、第一法規、2019年)、『親族・相続法[第2版]』(共著、弘文堂、2016年)、『家事事件の理論と実務』(共著、勁草書房、2016年)、『はじめての家族法[第2版]』(編著、成文堂、2013年)など。