『あなたも明日は裁判員!?』(編著:飯考行+裁判員ラウンジ)

一冊散策| 2019.04.19
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

はじめに

この本は、裁判員を担う市民向けの、裁判員制度の現在・過去・未来についてのガイドブックです。実質的には、裁判員ラウンジのいわば紙上版といえる内容となっています。裁判員ラウンジとは、裁判員経験者に体験談を語っていただいて、それをもとに裁判員制度に関心を持つ人びとが自由に対話するという 2014 年 12 月より 3 か月ごとに継続している集会です。毎回、メインスピーカーの裁判員経験者などを探すことに苦心して自転車操業のような状態ながら、市民(裁判員候補者を含む)、裁判員経験者、学生(高校生から法科大学院生まで)、法学研究者、弁護士、裁判官などの来場があり、体験談と対話が重ねられてきました。本書は、参加者のひとり日本評論社の荻原弘和さんより、口頭のやりとりで終わるのはもったいないとお声がけいただき、裁判員制度施行10年を機に発刊にいたりました。

執筆者のほとんどは、裁判員ラウンジの参加者です。裁判員を経験した方々には、体験談を綴っていただきました。その他の方々には、裁判員をまだ務めたことがない方、実際に経験した方など、さまざまな方々にこの本をお読みいただけるよう、そもそも裁判員制度とはどのようなものか、裁判員裁判にたずさわるのはどのような人か、裁判員経験者に関する市民団体にどのようなものがあるか、裁判員裁判はどのような実施状況にありどのような問題が論じられているかなどについて、平易に記していただいています。

私は、裁判員制度について、司法制度改革の一環として司法の国民的基盤のテーマが議論され、その構想が浮上した 2000 年から、関心を持っていました。その関心は、2009 年に裁判員裁判がスタートし、実際に法廷で傍聴してから、さらに高まりました。裁判員裁判を傍聴して印象的なのは、人の話を聞いて判断する裁判であることです。法廷で語られる被告人、弁護人、検察官、証人や被害者などの声が、しっかりと裁判員と裁判官により受けとめられ、その他の証拠とともに吟味されて慎重な判断につながっていることが、肌で感じられます。

しかし、裁判員を務めた方々がどのようなことを感じ、考えているのか、話を聞きたくても、その機会はほとんどありません。裁判員ラウンジを始めたきっかけは、裁判員を経験した方々の話を身近に伺うことにありました。毎年、1000 件前後の事件が裁判員裁判で審理され、1 件あたりを裁判員 6 人と交代要員の補充裁判員 2 人程度が担当します。そのため、裁判員と補充裁判員を経験する市民は、毎年 1 万人ほど増えているはずです。ただ、1 万人といっても、日本の人口に占める割合はわずかに過ぎません。裁判員制度は実施からさほど年月を経ておらず、家族や知り合いで裁判員を務めた人は少なく、裁判員制度自体もいまだ身近ではないように思われます。

本書が、この 10 年の間に裁判員を経験した人、これから裁判員を経験するかもしれない人や、実務法律家にとって、裁判員制度を身近にとらえ、考えるきっかけになれば、これに勝る喜びはありません。最後になりますが、本書の執筆をご快諾いただいた方々に、心よりお礼申し上げます。また、本書を人の温か味にあふれる素敵なイラストで飾ってくださったイラストレーター・かわいちひろさん、本書の企画・編集を全面的に担当してくださった荻原弘和さんをはじめ株式会社日本評論社の関係者の方々にも厚くお礼申し上げます。そして、裁判員ラウンジでメインスピーカーを務めていただいた後に永眠された、裁判員経験者の小田篤俊さんと、守屋克彦弁護士・元裁判官に、本書を捧げたく思います。

専修大学法学部教授/飯 考行

 

目次

はじめに

第1部 知ろう!語ろう!裁判員制度
1 裁判員制度って何だろう
2 裁判員裁判が始まって終わるまで
3 裁判員裁判にたずさわる人びと
4 裁判員経験者のその後
5 実況中継!裁判員ラウンジ

第2部 もっと知りたい!裁判員制度

司法への国民参加 — 裁判員制度施行10年目に足もとを見直す
裁判員制度をめぐる諸問題
●裁判員制度の課題と展望について
●取調べビデオ録画について
●辞退率(職場の理解等)の問題について
●裁判員制度をめぐる報道のあり方について
●ベルギーから見た裁判員制度
●裁判員教育の取り組み

裁判員裁判における主な判例
●裁判員制度施行後の判例の動向について
●チョコレート缶事件
●今市事件

結びにかえて — 裁判員に関する重要な2つの課題とその解決案
附録 裁判員制度に関する補足情報

書誌情報など

関連情報