(第1回)先人たちの探究心を識る/龍谷大学・大宮図書館

すごい!大学の図書館、博物館| 2019.04.18
大学は、学術研究と教育の最高機関。それぞれの大学が所蔵している専門性の高い資料、史料、蔵書などの貴重なものたちを、愛でないなんてもったいない!このコーナーでは、全国にあるすごい大学の施設、そしてそこにある「おたから」をご紹介していきます。学生・教育関係者・研究者にはもちろん、一般に公開されているものも取り上げていきますので、どうぞお楽しみに!

(不定期更新)

龍谷大学・大宮図書館

さて、第1回目で取り上げるのは、京都駅から徒歩10分の好立地! 龍谷大学の大宮図書館です。

この建物は、大倉三郎の設計により1936(昭和11)年に建てられたもの。2003(平成15)~2006(平成18)年に改修工事を経て、新装開館しました。竣工当時の外観を残しつつ中庭部分を増床し、蔵書・学習スペースを確保。耐震等の最新の設備も備えたといいます。確かに瓦や窓枠の形が、よい雰囲気を醸し出しています。

大宮校舎では龍谷大学の文学部の3、4回生、さらに文学研究科(大学院)の学生が学んでいるということで、文学部系の書籍を中心とした蔵書になっているとのこと(ほか、法律・経済系などは深草図書館、理工系、農学部などは瀬田図書館があります)。

図書館のエントランス

館内のようす(3階)

 

 

 

 

 

 

 

「解体新書」の初版本、拝見

今回は、本図書館の数ある貴重書の中から、「解体新書」の初版本を見せていただくことにしました。

「解体新書」序図よりタイトルページ

西洋の書物の、日本人による初めての翻訳とされ、教科書にも必ずといっていいほど登場するこの「解体新書」は、1冊の図解「序図」と、4冊の本文「巻之一〜四」の全5巻から成る書物です。

解体新書の初版本。刊行は、安永3(1774)年。

杉田玄白・中川淳庵・前野良沢らが翻訳作業を行ったとされますが、実は、主たる訳者であった前野良沢の名前は記されていません。

「解体新書」の主原著は、ドイツの解剖学者クルムス(J. A. Kulmus)の著した『解剖学表』(Anatomische Tabellen. 1732年刊)のオランダ語訳Ontleedkundige tafelen(1734年刊、いわゆる「ターヘル・アナトミア」)。本文以外に注が数倍もあるという書物だそうで、前野はその注も含めて、また訳文もさらに時間をかけて精査し、より正確なものを刊行したいという考えを持っていたものの、玄白はむしろ早くその内容を医学の発展に役立てたいと考え、その結果、前野の名前を外すかたちで刊行に漕ぎつけたようです(結局、注も含めた「フルバージョン」は刊行されなかっただろうというのが通説のようです)。

翻訳は1771(明和8)年から1774(安永3)年にかけて行われ、杉田玄白の晩年の書『蘭学事始』には、その翻訳作業にまつわる苦労が詳しく書かれています。

玄白が東京・小塚原刑場で死体の「腑分け」に立ち会った際、入手していた「ターヘル・アナトミア」と照らしてその正確さに驚愕し、翻訳へのモチベーションが一気に高まります。医者として人体を探究し、実際に見て触れて確かめた玄白。恐るべきスピードで刊行を成し遂げました。

「肺篇」「心篇」の図解のページ。

なお、図を担当したのは、平賀源内から洋画を学んだ小田野直武です。

さらに、職業柄、ついつい見たくなってしまう奥付。安永3(1774)年刊行。出版者は、東武書林、須原屋市兵衛。奥付裏は数ページにわたって出版社の広告が入っていて、同時代の出版物を眺めながら当時に思いを馳せてしまいました。

なお、この「解体新書」は学術研究目的であれば、予約の上、現物を閲覧することができるとのこと(あくまで研究目的に限り、一般の閲覧は行っていません)。「なーんだ」と思われた方、がっかりするのはまだ早い。貴重書は年に一度、秋に一般公開されるとのこと! 企画展のため、必ずおめあてのものが閲覧できるとは限りませんが、入場無料で、例年8日間ほどの展示に1000人ほどが足を運ぶ人気企画だそうです。

秋に京都旅行を計画している方、貴重書を拝むために京都旅行を計画したい方、ぜひ図書館のウェブサイトをチェックしてみてください!
※なお、2019年は龍谷大学380周年ということで、龍谷ミュージアムで貴重書を一同に展示する企画展が予定されており、図書館の貴重書も多数出陳されるとのことです。

そのほかの見どころ

龍谷大学といえば、そう、大谷探検隊です。

かつて仏教東漸において決定的役割を担った中国領中央アジア。浄土真宗本願寺派の大谷光瑞師は、1902(明治35)から1914(大正3)年の間に、3回にわたって探検隊を派遣し、仏教遺跡の調査、古写経の収集等を行いました。

3階の壁一面に貼られた、砂漠をゆく大谷探検隊の姿(陶板)は、図書館改修にあたって、文学部・短期大学部同窓会により寄贈されたもの。ラクダに乗って砂漠をゆく一行を仰ぎ見れば、探求心がムクムクと……。

 

図書館入口の左右にはベゼクリク(Bezeklik)石窟寺院より出土した壁画のレプリカ(原寸、陶板)が掛かっていました。

中国・新疆ウイグル自治区のトルファン郊外にあるベゼクリク石窟寺院は、実際に探検隊が発掘調査に訪れた場所でもあります。

 

 

 

 

こちらは図書館中央のガラス張りエレベーター。

転写されている縦書きの文章は、「祇園精舎の鐘の声……」。ご存じ、平家物語の冒頭部分です。渋い。

平家物語の「語り本」として名高い「一方流覚一本」(いちかたりゅう かくいつぼん)からとったもので、もちろん現物は本図書館で所蔵。岩波書店刊、日本古典文学大系『平家物語』の底本となっている。教科書等に掲載するため撮影依頼がくることも。

 

今年(2019年)、380年を迎える龍谷大学。

龍谷大学の教育理念は「真実を求め、真実に生き、真実を顕(あきら)かにする」。
真実の探求とは、先人たちの切り拓いた道を歩き、その知恵の蓄積を紐解いて、深めたその先の世界を求めることではないかと考えさせられました。

図書館にはまだまだたくさんの、歴史的資料があります。

(文責:編集部)

アクセス

龍谷大学大宮キャンパス

  • JR東海道本線・近鉄京都線「京都」駅下車、北西へ徒歩約10分(市バス約3分)
  • 京阪本線「七条」駅下車、西へ徒歩約20分
  • 阪急京都本線「大宮」駅下車、南へ徒歩約20分(市バス約5分)
  • 最寄りのバス停:市バス 七条大宮・京都水族館前

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