(第7回)労働法と競争法の交錯—YouTube/Uber時代の労働法(森倫洋)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2019.03.11
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。西村あさひ法律事務所の7名の弁護士が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

特集「人材獲得競争と法」

ジュリスト1523号(2018年9月号)14頁以下

2018年2月に公正取引委員会の「人材と競争政策に関する検討会」報告書(以下「本検討会報告書」という。PDFはこちら)が公表されたが、近時、シェアリングエコノミーの広がりとともに、労働法と独占禁止法の交錯という従来あまり認識されてこなかった議論が行われるようになってきている。

本特集は、この問題に関して、独禁法・労働法の両面からそれぞれの法分野の専門家が多角的に論じているものである。筆者は、主として労働法的な観点から興味をもって本稿を拝読した。

ジュリスト1523号(2018年9月号)定価 1,540円(本体 1,426円)

座談会「人材獲得競争の法と接点」では、上記検討会の座長であった泉水文雄神戸大学大学院法学研究科教授のリードで、検討会メンバーで労働法の権威である荒木尚志東京大学教授、スポーツ法学の専門家である川井圭司同志社大学教授らが参加し、検討会での議論を踏まえて、多岐にわたるテーマにつき議論がされている。

まずは、労働者・労働組合と独禁法の関係である。独禁法では「事業者」のカルテル等が規制されるが、形式上請負や委任でself-employedのフリーランサーの形がとられていても、事実上、使用従属関係が認められれば、労組法上の「労働者」に当たる場合がある。このような「事業者」性と「労働者」性を併せ持つフリーランサーについての労組法及び独禁法の適用関係が論じられ、「事業者」であるが労組法上の労働者に当たる者が団体でフランチャイザー等と交渉を行う場面等について検討がされている。市場に対するサービス提供者である事業者がサービス価格維持のために徒党を組めばカルテルとして規制の対象になるが、労組法上の「労働者」としての立場であれば団結権・団体交渉権で保護される立場になり、かかる二面性の使い分けは実務上も関心が持たれる。

次に、「人材獲得市場」における独禁法適用の問題にも触れられている。本座談会ではスポーツ選手の移籍・転職制限や、フリーランサーに対するマッチングのプラットフォーム提供に際しての共同の価格の取決めに関して、独禁法的な規制の観点を中心に議論がされている。「働き方改革」の中で「同一労働同一賃金」が求められ、ヨーロッパでは産業別で同一労働に対しては同一賃金の支払が求められる労働法の世界からすると、フリーランサーが事業者として扱われれば競争法の世界となり真逆の発想になる点は興味深い。

また、競業避止義務の有効性についても、従来の「職業選択の自由」の制限と使用者側の営業秘密・商圏の保持等の利益との相関関係という発想だけでなく、競争制限・独占集中による弊害という“消費者の利益”の観点があるという指摘も、労働法的な思想から日々競業避止義務の問題を扱う筆者の立場からすると新鮮である。さらに、専属義務に関し、芸能人・被用者・フリーランサーを育成コストの観点から比較して専属義務を課すことの有効性の議論もされている。「働き方改革」の中で、労働力人口の減少を見越して兼業・副業の促進が謳われてることと比して、雇用関係にある者よりも身分の不安定なフリーランサー・芸能人・スポーツ選手において専属義務の有効性の範囲をどこまで認めるかは更に議論の余地があるように思われた。

さらに、本特集の中では、土田道夫同志社大学教授が「人材獲得市場における労働法と競争法の機能」と題して、労働法的な観点からの考察を加えている。人材獲得競争に関して、米連邦司法省で大手IT企業6社における引き抜き防止協定について、競争により適正に機能したはずの価格決定メカニズムを害したものとして訴追されたことが紹介され、引き抜き防止協定や賃上げ抑制に関して、独禁法のサンクションを超えて、労働者から損害賠償責任を問い得るかという問題提起がされているのは新味がある。また、土田教授は、厚生労働省が2018年3月に公表した「雇用類似の働き方に関する検討会報告書」において、「雇用によらない働き方」の保護内容として、①契約条件の明示、②契約内容の決定・変更・終了のルールの明確化、③報酬額の適正化、④紛争に係る相談窓口の整備など抽象的な検討課題を掲げるにとどまってるのに比べ、ⅰ.価格取決め行為、ⅱ.移籍制限、ⅲ.退職後の守秘義務・競業避止義務・専属義務、ⅳ.役務提供に伴う成果物の利用制限行為等に関する規制が挙げられる本検討会報告書における競争法上の保護はより具体的なもので有効であると高く評価している。その上で、土田教授は、本検討会報告書が労働法と独禁法の適用関係に関して採用する(原則的)労働法優先適用論について、疑問を呈し、原則と例外の関係が明確でないとして、例外として独禁法の規律が及ぶ場合をより柔軟に解して独禁法の規律可能性を高める方向性を模索されている。また、人材獲得市場においては、使用者と労働者の間でも独禁法の適用を否定せず、使用者の競争制限行為に対しては独禁法を適用すべきことを示唆されている。

Uberの運転手については諸外国で労働者性が争点となる裁判がされ、これを認める判決も出る一方で、従来のタクシー運転手が規制を求めてデモをするなど、業態にまたがる対立構造やそれに伴う労働者保護の問題もあり、シェアリングエコノミーは従来の労使関係と質的に異なる問題を提起している。今後、ますますフリーランサーと労働者の境界線を巡る問題が増えるのが見込まれる中で、労働法と競争法との交錯・守備範囲の問題は一層注目される。

本論考を読むには
雑誌購入ページへ

この連載をすべて見る


森 倫洋(もり・みちひろ)
1993年東京大学法学部、1999年ハーバード大学ロースクール卒業(LL.M.)。1995年判事補任官、東京地裁・最高裁事務総局民事局・福岡地裁勤務の後、2005年西村あさひ法律事務所入所、2007年からパートナー。訴訟・労働法・事業再生を専門とし、著書は『和文・英文対照モデル就業規則〔第3版〕』『アジア進出・撤退の労務』『注釈破産法(上)』ほか多数。