不思議の国のカルロス・ゴーン?(川崎友巳)

法律時評(法律時報)| 2019.02.28
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」92巻3号(2019年3月号)に掲載されているものです。◆

1 はじめに

「不思議の国のカルロス・ゴーン(Carlos Ghosnin Wonderland)」。これは、昨秋のカルロス・ゴーン日産自動車前会長らの逮捕に始まった一連の刑事事件について、本年1月8日の『ウォールストリートジャーナル』が取り上げた社説のタイトルである(The Editorial Board, Carlos Ghosn inWonderland:The Case against the Former Nissan CEOGets No Stronger with Age, Wall Street Journal, Jan. 8,2019.)。そのオリジナルが、イギリス児童文学作品『不思議の国のアリス』にあることは言うまでもない(正確を期せば、文学作品の原タイトルは、“Alice’s Adventure in Wonderland”なので、社説の元ネタは、同作品をモデルに作られ、日本では、同じタイトルが付されたディズニー映画“Alice in Wonderland”ということになろう)。社説では、白ウサギを追って不思議の国に迷い込み、冒険を繰り広げた少女アリスさながらに、ゴーン氏が、「不思議の国」ニッポンの刑事司法に翻弄されていると揶揄されている。そして、社説は、「この事件は、法廷(court room)ではなく、重役会議室(board room)で扱うべき事案に思える」と締めくくられている。こうした海外からの評価に共感を覚える人は、日本でも少なくないようで、表現は異なるものの、今回の事案が刑事事件化していることに対する疑問の声をしばしば耳にする。しかし、本当に、そうなのだろうか。

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