(第6回)災害対策は他人任せでよいのか(高橋祥友)/『災害支援者支援』から

きになる本から| 2019.01.23
近年注目されるようになった災害時における支援者のメンタルヘルス。復興のキーパーソンである災害支援者をどう支えていくかをテーマとした、高橋晶編著『災害支援者支援』にコラムとして掲載されたものである。災害支援者とは、警察官、消防士、救急救命士、自衛官、海上保安庁職員、医療職、行政職、教職員、ボランティアなどが含まれる。

とくに歴史好きというわけではないのだが、時折、わが国の現代史を振り返ってみることがある。1868年の明治維新から数えて、本書をまとめている時点(2018年)でちょうど150年となった。

年表を眺めてみると、19世紀末から20世紀半ばまでは、大きな戦争や大災害の連続であった。たとえば、
1894年 日清戦争
1904年 日露戦争
1914年 第一次世界大戦
1923年 関東大震災
1937年 日中戦争
1941年 太平洋戦争

これだけ短期間に大規模災害が連続していた頃には、人々は「いつまた大災害が起きるかわからない」「今の穏やかな状況はいつ壊れるかもしれない」といった不安がこころのどこかにあって、何らかの備えもできていたのではないだろうか。

太平洋戦争が終了して70年以上、わが国は平和が保たれていて、それはとてもありがたいことではある。しかし、あまりにも長く続いた平和の影響で、天変地異が起きることがどこか他人事になっているようなところはないだろうか。天災も人災も遠くの出来事で、たとえ起きても自分とは関係のないことで、誰かが対策を立ててくれるはずだと、思いこんではいないだろうか。

大規模災害の対策を世界各国に学んでいくと、むしろ途上国のほうが、われわれが学ぶべき点が多いように感じることがある。たとえば、フィリピンである。フィリピンの面積は約30万平方キロメートル(日本の8割)、人口は約1億人と、どちらもわが国よりも少し小さくて、約7000の島からなる。この国では、大規模災害が生じた場合に、ただちに救援を期待できる地域ばかりではない。そこで、中央からの支援が来るまでの間、最低でも1週間は被災地独自でもちこたえることができるような、地域に根差した対策を考えるのが基本であるという。地域住民自身も支援活動において中心的な役割を果たすように計画されている。

このような自助の精神は私たちも学ぶべきだろう。対応をお上任せにして、少しでも不満があると、マスコミを通じて他者を攻撃するという心構えでは、十分な災害対応はできないだろう。少なくとも自分の命は自分で守るという気構えがあってこその、災害対応ではないかと感じる。

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高橋祥友(たかはし・よしとも)
筑波大学医学医療系災害・地域精神医学教授


◆このコラムが掲載されている書籍はこちらです。
高橋 晶 編著『災害支援者支援』(日本評論社、2018年)

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