(第5回)公開会社法と閉鎖会社法の狭間で(川島いづみ)

私の心に残る裁判例| 2019.02.01
より速く、より深く、より広く…生きた法である“判例”を届ける法律情報誌「判例時報」。過去に掲載された裁判例の中から、各分野の法律専門家が綴る“心に残る判決”についてのエッセイを連載。
判例時報社提供】

(毎月1回掲載予定)

非公開会社の新株発行無効原因等に関する最高裁判決(全国保証株式会社事件)

1 商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)280条の21第1項に基づく株主総会決議による委任を受けた取締役会が定めた新株予約権の行使条件をその発行後に変更する取締役会決議の効力
2 非公開会社において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法によってされた募集株式発行の効力
3 非公開会社が株主割当て以外の方法により発行した新株予約権の行使条件に反した当該新株予約権の行使による株式発行に無効原因がある場合

(最高裁判所平成24年4月24日第三小法廷判決)

【判例時報2160号121頁】

株式会社といっても、大規模な上場会社もあれば、親族だけが株主の同族会社もある。後者のような会社では、株主は数も少なく固定的で、株式の譲渡もほぼ行われない。しかしながら、株式会社が、元来、資本市場において不特定多数の投資家から大量の資金を調達するために、つまり大規模な上場会社等のために考え出された制度であるため、かつての商法(現在の会社法に相当する部分)には、こうした大規模な公開性の会社を理念型とする条項が置かれていた。そのため、小規模な同族会社等の実態と法律との間には著しい乖離があったが、そこから生ずる問題に対して、昭和40年代から昭和60年頃までの最高裁は、法改正に遙かに先行して、小規模企業の実態を勘案した判例法理を形成していた。

とはいえ、制度改正が先行した例もある。1990(平成2)年改正商法は、株式譲渡制限会社において原則として株主の新株引受権を法定して、株主割当以外の方法で新株を発行するには株主総会の特別決議を要求し、2005年制定の会社法も、非公開会社における株主割当以外の方法による募集株式の発行を株主総会の特別決議事項としたが、判例は、授権資本制度の下では、新株発行権限は取締役会に委ねられており、新株発行に必要な株主総会決議を欠くことは新株発行の無効原因とはならない、と解する有効説(最二小判昭46・7・16判時641号97頁等)のままだった。無効説が学説の多数説となり、無効説をとる下級審裁判例も現れていたが、最高裁はその立場を明らかにする機会に恵まれなかったようだ。

全国保証株式会社事件は、非公開会社の取締役会が、株主総会の特別決議による委任に基づいて取締役に付与する新株予約権の行使条件(上場条件)を定めながら、後にこれを変更し、当初の行使条件に違反して新株予約権が行使された事案で、これにより発行された株式の効力が争われた。原々審・原審が、行使条件に関する株主総会の委任の趣旨や差止めの機会がないことを理由に、これを無効としたのに対して、最高裁は、会社法が非公開会社では持株比率の維持に関わる既存株主の利益保護を重視していることから、必要な株主総会の特別決議を欠いて募集株式が発行された場合、この瑕疵は無効原因となると解されることを主な理由として、これを無効とした。これにより最高裁は、非公開会社については前述の論点に関する無効説をとることを明らかにする一方、この判示を非公開会社の場合に限定した。そのため、この判決を知って、ついに非公開会社で無効説、という想いとともに、ちょっと物足りなさも感じたことを覚えている。社外監査役が提訴していることも、時代の変化を感じさせた。

「私の心に残る裁判例」をすべて見る

川島いづみ(かわしま・いづみ 早稲田大学教授)
1955年生まれ。岐阜経済大学経済学部専任講師、専修大学法学部助教授、教授を経て現職。著書に、『公開会社法と資本市場の法理(上村達男先生古稀記念)』(共編著、商事法務、2019年)、『イギリス会社法-解説と条文』(共訳、成文堂、2017年)、『株式会社法大系』(共著、有斐閣、2013年)など。