渋谷はハロウィーン会場なのか否か──憲法上の自由と給付(柴田憲司)(特集:憲法問題の見つけ方)

特集から(法学セミナー)| 2024.04.12
毎月、月刊「法学セミナー」より、特集の一部をご紹介します。

(毎月中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」832号(2024年5月号)に掲載されているものです。◆

特集:憲法問題の見つけ方

憲法学って、なんだか仰々しくて難しい? 私たちの生活にはあまり関係ない?
そんなイメージもあるかもしれませんが、
実は日々のニュースには憲法上の論点となりうる現象が潜んでいることも珍しくありません。
憲法問題の「芽」を見つけて掘り起こし、憲法を学ぶ面白さを感じてみませんか。

――編集部

「渋谷はハロウィーンの会場ではない」(朝日新聞デジタル、2023/9/12)1)

10月31日のハロウィーン周辺に仮装した人らが東京・渋谷駅周辺に集まることについて、渋谷区の長谷部健区長は12日の会見で、「ハロウィーン目的で渋谷駅周辺に来ないでほしい」と呼びかけた。……

「ハロウィーンで渋谷駅周辺に来ないで」(読売新聞オンライン、2023/09/12)2)

〔区長の発言は〕昨年10月に韓国・ソウルの梨泰院(イテウォン)で150人以上が死亡した雑踏事故を受けたもので、警察や鉄道各社などと協議して例年以上に厳しい街頭警備や交通規制も検討しているという。……今年は、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「5類」に引き下げられて初めてのハロウィーンとなる。区はコロナ禍前並みか、それ以上に人出が増えるとみて警戒している。

渋谷区のHPに掲載の動画(いずれも2024/2/27閲覧)

1 渋ハロと「来ないで」の呼びかけ

渋谷ハロウィーン(渋ハロ)は、2010年代頃から若者が仮装して街に繰り出すイベントとして自然発生的に広まり、近年は外国人観光客も多く訪れ大規模なものになっている。

他方、大勢が集まることで、路上へのゴミ投棄や飲酒に伴う騒音、一部の暴徒化した者による沿道の店舗・器物等の破壊、暴行・痴漢行為など、住民や事業者などの安全を脅かす事態も生じていた。2018年には酒に酔った若者らが軽トラックを横転させて逮捕されるなどの混乱が発生した。区は翌年に路上飲酒などを禁止する条例を制定し(渋谷駅周辺地域の安全で安心な環境の確保に関する条例。以下「条例」)、渋ハロをマナーの順守と両立させつつ渋谷を「成熟した国際都市」に進化させる(条例1条)という方針を採用した。2019年に区は「ハロウィーンを渋谷の誇りに」と記した看板を街内に掲示していた。

だが2023年、渋谷区は、「渋谷はハロウィーンイベントの会場ではありません」と記した看板等を街内の各所に設置し、区長も会見で「ハロウィーン目的でハロウィーン期間に渋谷駅周辺に来ないでほしい」(前記渋谷区HP)と国内外に発信した。結果として、ピーク時に渋谷センター街周辺に集まった人数は前年より8千人減り(1万5千人)、区長は「来年も公道がハロウィーン会場ではないという発信は続けていきたい」と述べた(「渋谷のハロウィーン、人出35%減 区の対策費は8800万円に増額」朝日新聞デジタル、2023/11/1)3)

ところで、渋ハロ目的での人の集まりや移動をやめるよう区が呼びかけることは、憲法が個人に保障する集会の自由(憲法21条1項)や移動の自由(同22条1項or同13条)と抵触しないのだろうか。公道がハロウィーン会場ではないとの区長の再三の呼びかけには、本件が憲法問題になるかどうかを左右するポイントの1つが含まれている。

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脚注   [ + ]

1, 2, 3. 2024年2月27日閲覧。