(第25回)仮執行宣言に基づく執行の先にあるもの

民事弁護スキルアップ講座(中村真)| 2024.01.23
時代はいまや平成から令和に変わりました。価値観や社会規範の多様化とともに法律家の活躍の場も益々広がりを見せています。その一方で、法律家に求められる役割や業務の外縁が曖昧になってきている気がしてなりません。そんな時代だからこそ、改めて法律家の本来の立ち位置に目を向け、民事弁護活動のスキルアップを図りたい。本コラムは、バランス感覚を研ぎ澄ませながら、民事弁護業務のさまざまなトピックについて肩の力を抜いて書き連ねる新時代の企画です。

(毎月中旬更新予定)

1 仮執行宣言のおさらい

前回、私たちが訴状で何気なく、半ば機械的に付している仮執行宣言の申立てについて、基本的なところからその概要を確認しました。

仮執行宣言は、未確定の終局判決に対し、確定判決と内容上同一の執行力を付与する形成的裁判であり、一審敗訴者の正当な上訴の利益と、一審で請求の正当性を宣言された勝訴者の早期に権利実現を図る利益との調和のための制度だったというわけです。「仮」と名が付くものの、原則として確定判決と同様、請求権の満足段階まで進むことができます。

また、仮執行宣言は、上訴によってその内容が取り消され、あるいは変更される可能性のある暫定的な状態において一審勝訴者の権利実現を認める制度ですから、仮に控訴審でその内容が変更された場合には、原状回復が可能でなければなりません。

そのため、仮執行宣言が問題となるのは、財産権上の訴えであることが前提であり、かつ、その中でも(金銭請求に限られるわけではないものの)少なくとも金銭賠償による処理が可能な請求に限られます。

また、登記手続請求訴訟など、意思表示を求める請求については、判決が確定することによってはじめて執行力が生まれるので(民事執行法173条1項)、未確定の終局判決の状態で仮執行宣言を付すことはできないとされているのでした。

2 控訴審での落とし穴

さて、仮執行宣言に基づく執行について、民事訴訟の代理人を務める者として一つきちんと押さえておくべきことがあります。

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中村真(なかむら・まこと)
1977年兵庫県生まれ。2000年神戸大学法学部法律学科卒業。2001年司法試験合格(第56期)。2003年10月弁護士登録。以後、交通損害賠償案件、倒産処理案件その他一般民事事件等を中心に取り扱う傍ら、2018年、中小企業診断士登録。2021(令和3)年9月、母校の大学院にて博士(法学)の学位を取得(研究テーマ「所得税確定方式の近代及び現代的意義についての一考察-我が国及び豪・英の申告納税制度導入経緯を中心として-」)。現在、弁護士業務のほか、神戸大学大学院法学研究科にて教授(法曹実務)として教壇に立つ身である。