政治的分断は家計の資産形成に影響を与えるのか?

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2023.11.29
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

McCartney, W. B., Orellana-Li, J. and Zhang, C.(2023)“Political Polarization Affects Households’ Financial Decisions, Evidence from Home Sales,” Working Paper (forthcoming at Journal of Finance).
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小栗洵子

はじめに:支持政党の違いの影響

政治的な信条や政党の支持といった「政治的アイデンティティ」に基づく社会的分断が、世界各地で急速に広がっている。経済学ではこのような状況をふまえ、支持政党の違いが結婚・パートナー選びや雇用などにどのような影響を与えるかについての研究が進んでいる (Huber and Malhotra 2017; Iyengar, Konitzer and Tedin 2018; McConnell et al. 2018)。この流れを受けて、ファイナンスという一見政治から離れた分野でも、政治的分断が金融資産の価格や個人のポートフォリオ選択に及ぼす影響に焦点を当てた研究が行われている (Cookson, Engelberg and Mullins 2020; Meeuwis et al. 2022)。本稿で紹介する McCartney, Orellana-Li and Zhang (2023) もそうした研究の 1 つであり、異なる政党を支持する隣人が家計の住宅保有にどのような影響を及ぼすかを明らかにした論文である1)

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脚注   [ + ]

1. 本稿では、著者の 1 人である W. Ben McCartney 氏のウェブサイトからダウンロードした、2023 年 6 月 24 日時点のワーキングペーパーをレビューしている (https://wbenmccartney. files. wordpress. com/2023/06/mccartney_orellanali_zhang_politics_home_sales.pdf 最終アクセス:2023 年 9 月 25 日)。