(第19回)火星の衛星の起源をめぐって

地球惑星科学の地平を求めて(半揚稔雄)| 2023.11.17
お馴染だと思っているはずの地球や宇宙も,自然科学の目で見ると実に多様な顔を見せてくれます.この連載では,地球を中心とした様々な対象や現象について,最近の知見をもとに改めて解説します.

(毎月中旬更新予定)

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火星には小さな二つの衛星,フォボスとデイモスがある.その成因をめぐっては “捕獲説” と “衝突説” の二説があり,その決着にはもうしばらく時間がかかりそうである.この成り行き次第では,太陽系形成のシナリオに影響する可能性も示唆されている.ここでは,衝突説の観点から,現在までの論点を整理してみよう.

“惑星の化石” としての衛星

惑星に残る形成時の痕跡をたどるとき,地球の場合,その年齢 45 億年のうち,その形成時の痕跡は 40 億年前までは遡れるものの,それより以前の 5 億年に関しては皆無である.このようなとき,その衛星,つまり “月” が形成された時期は地球形成の最終段階と推定されることから,惑星形成の最終段階を知るための手掛かりとして衛星を利用することができる.つまり,衛星は “惑星の化石” と捉えることができるのである.

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半揚稔雄(はんようとしお) 1947 年,福岡県に生まれる.その後,北海道札幌市にて子供時代を過ごす.小学校 4 年の 10 月に,ソヴィエト連邦 (現在のロシア) が「世界初の人工衛星スプートニク 1 号を打ち上げた」とのニュースに接して,宇宙に興味を覚える.以来,宇宙飛行に関心を寄せ,物理学で理学士となるも,これが高じて防衛大学校,東京大学宇宙航空研究所 (現・JAXA宇宙科学研究所) などで一貫して宇宙飛翔力学の研究に携わる.この間に,東京大学から工学博士の学位を授かる.

著書:『ミッション解析と軌道計の基礎』(現代数学社,2014 年),『入門連続体の力学』(同,2017 年),『つかえる特殊関数入門』(同,2018 年) ,『惑星探査機の軌道計算入門 (改訂版)―― 宇宙飛翔力学への誘い』(日本評論社,2023 年)など.