(第18回)月誕生の新シナリオ—シネスティア

地球惑星科学の地平を求めて(半揚稔雄)| 2023.10.19
お馴染だと思っているはずの地球や宇宙も,自然科学の目で見ると実に多様な顔を見せてくれます.この連載では,地球を中心とした様々な対象や現象について,最近の知見をもとに改めて解説します.

(毎月中旬更新予定)

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月の誕生は 45 億年ほど前に原始地球と原始惑星とが起こした破局的な衝突によるとする,いわゆる“巨大衝突 (ジャイアント・インパクト)” 説が最有力視されて来た.しかし,月の組成が地球の組成とほぼ一致することや,月のその他の性質が容易に説明できないという点から,手詰まりの状況にあった.2018 年に,月の組成が地球に似ていることを説明する新たなモデルとして,“シネスティア” と呼ばれるまったく新しい中間的な天体が形成され,この天体の進化過程を通して先の難点が解消されることが示された.

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半揚稔雄(はんようとしお) 1947 年,福岡県に生まれる.その後,北海道札幌市にて子供時代を過ごす.小学校 4 年の 10 月に,ソヴィエト連邦 (現在のロシア) が「世界初の人工衛星スプートニク 1 号を打ち上げた」とのニュースに接して,宇宙に興味を覚える.以来,宇宙飛行に関心を寄せ,物理学で理学士となるも,これが高じて防衛大学校,東京大学宇宙航空研究所 (現・JAXA宇宙科学研究所) などで一貫して宇宙飛翔力学の研究に携わる.この間に,東京大学から工学博士の学位を授かる.

著書:『ミッション解析と軌道計の基礎』(現代数学社,2014 年),『惑星探査機の軌道計算入門 (改訂版)―― 宇宙飛翔力学への誘い』(日本評論社,2023 年),『入門連続体の力学』(同,2017 年),『つかえる特殊関数入門』(同,2018 年) など.