(第23回)これは法の関知するところにあらず、キケロの関知するところなり

法格言の散歩道(吉原達也)| 2023.08.03
「わしの見るところでは、諺に本当でないものはないようだな。サンチョ。というのもいずれもあらゆる学問の母ともいうべき、経験から出た格言だからである」(セルバンテス『ドン・キホーテ』前篇第21章、会田由訳)。
機知とアイロニーに富んだ騎士と従者の対話は、諺、格言、警句の類に満ちあふれています。短い言葉のなかに人びとが育んできた深遠な真理が宿っているのではないでしょうか。法律の世界でも、ローマ法以来、多くの諺や格言が生まれ、それぞれの時代、社会で語り継がれてきました。いまに生きる法格言を、じっくり紐解いてみませんか。

(毎月上旬更新予定)

Nihil hoc ad ius, ad Ciceronem.
(Cicero, Topica 51)
ニヒル・ホック・アド・ユース・アド・キケローネム
(アクィリウス・ガッルスの言葉、キケロ『トピカ』51)

キケロ『トピカ』

標題の格言は、キケロ(Marcus Tullius Cicero、前106-前43年)の『トピカ』(Topica)51節に、法学者アクィリウス・ガッルス(Gaius Aquilius Gallus)の言葉として記されている。『トピカ』は、キケロが暗殺される1年前に、若い友人の法学者トレバティウス(Gaius Trebatius Testa、紀元後4年以後没とされる)からの求めに応じて書き下ろした小品である。冒頭の5節はこの書の執筆経緯が記された書簡体の文章となっている。これによれば、トレバティウスが、トゥスクルム(ローマ南東40kmほどに位置する)にあったキケロの別荘を訪ねた際に、たまたま書庫で手にしたアリストテレスの『トピカ』という書について、その解説を懇請されたことが本書執筆のきっかけとなったとされている。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について

吉原達也(よしはら・たつや)
1951年生まれ。広島大学名誉教授。専門は法制史・ローマ法。