令和5年1月25日最高裁大法廷判決(衆)(人口比例選挙請求訴訟)の評釈と1人1票等価値論(その2)――主権を議論の出発点として(升永英俊)

2023.05.24

下記は、2023年3月15日配信「令和5年1月25日最高裁大法廷判決(衆)(人口比例選挙請求訴訟)の評釈と1人1票等価値論――国会議員の一票がすべて等価値であることを議論の出発点として(升永英俊)」に続くものです。
本稿では、主権を議論の出発点とします。

Ⅷ 統治論(主権論)

統治論(主権論)は、【主権を議論の出発点として、憲法が、人口比例選挙を要求していること】を論証しようとするものである。

(1) 明治憲法は天皇主権であった。
(2) 日本国のポツダム宣言受諾という革命により、現憲法が成立した(宮沢俊義「八月革命と国民主権主義」『世界文化』第1巻第4号68頁1946年5月)。
(3) ポツダム宣言受諾・現憲法制定により、主権は、天皇から国民に移動した。
(4) ところが、日本国は非人口比例選挙を採用したため、主権は、天皇から、国民に移動しないで、実質、国会議員に移動し、今日に至るも、非人口比例選挙が維持されている。
そのため、日本は、憲法制定時から今日まで、国民主権国家であったことがなく、実質、国会議員主権国家のままである。
(5) 人口比例選挙請求訴訟の目的は、下記1~5記載のとおり、【国民が、(憲法に矛盾して、国会議員が行使している)主権を行使する権利を、国会議員から回復すること】である。

1 主権とは:

主権とは、「国政を最終的に決定する力」である1)

主権(「国政を最終的に決定する力」)は、内閣総理大臣を指名する国家権力を含む。

よって、内閣総理大臣を指名することは、主権の行使に該当する。

2 主権の行使とは:平成17年9月14日最高裁大法廷判決(在外邦人選挙権剥奪違憲訴訟)

(1) 平成17年9月14日最高裁大法廷判決(在外邦人選挙権剥奪違憲訴訟)(以下、平成17年最大判ともいう)は、

「憲法は、前文及び1条において、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに、43条1項において、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め、15条1項において、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利であると定めて、国民に対し、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障している。」(強調 引用者)

と判示する(民集59巻7号2095頁)。

すなわち、同判示は、憲法前文1条、43条1項、15条1項が、「国民に対し、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障している。」(強調 引用者)旨説示している。

(2) 上記(1)記載のとおり、同判示は、国民の国政選挙の選挙権(すなわち、「国民(が)、主権者として、両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利」の行使は、主権を有する国民の主権の行使であると捉えている。

3 人口比例選挙と非人口比例選挙:

一方で、人口比例選挙では、【全有権者の[出席議員の過半数の、出席議員に対する百分率(50%超)]の投票(ただし、投票する権利を含む)が、衆参両院のそれぞれの[出席議員の過半数の、出席議員の対する百分率(50%超)]の投票と一致すること】が、担保される

ただし、小選挙区の場合、当選者(単数)を選出した各小選挙区の全構成員の投票〈ただし、投票する権利を含む〉は、該当選者の投票相当とみなし、中選挙区又は大選挙区の場合、当選者(複数)を選出した中選挙区又は大選挙区の各全構成員の投票〈ただし、投票する権利を含む〉は、各当選者の投票相当とみなし、各当選者にそれぞれに均等に按分されるものとする。

他方で、人口比例選挙では、【全有権者の[出席議員の過半数の、出席議員に対する百分率(50%超)]の投票(ただし、投票する権利を含む)が、[出席議員の過半数の、出席議員の対する百分率(50%超)]の投票と一致すること】が、担保されない

4 非人口比例選挙の日本は、国会議員主権国家:

現在、日本は、人口比例選挙であるので(ただし、2021年衆院選〈小選挙区〉の1票の較差・2.08倍;2022年参院選〈選挙区〉の1票の較差・3.03倍)、各院で、主権を有する全有権者の[出席議員の過半数の、出席議員に対する百分率(50%超)]の投票(ただし、投票する権利を含む)とは無関係に、常に、非人口比例選挙で選出された出席議員が、その過半数決で、内閣総理大臣を指名している。

すなわち、人口比例選挙の現在の日本においては、主権を有する全有権者の[出席議員の過半数の、出席議員に対する百分率(50%超)]の投票(ただし、投票する権利を含む)とは無関係に、常に、主権を有しない、国会における国民の代表者でしかない国会議員が、出席議員の過半数決で、主権の行使の一つたる内閣総理大臣を指名するので、国会議員がその過半数決で主権を行使している、と解される。

以上の理由により、人口比例選挙の現在の日本は、国民主権国家ではなく、国会議員主権国家である

5 主権を有する日本国民と主権を有しない国会議員
(2022参院選は憲法1条及び前文第1項第1文後段;56条2項;前文第1項第1文前段違反):

(1)  憲法1条は、「主権の存する日本国民」と定め、かつ

前文第1項第1文後段は、「ここに主権国民に存することを宣言し」と定める。

すなわち、国民主権有している憲法1条;前文第1項第1文後段)。

人口比例選挙では、上記4記載のとおり、(主権を有する国民の[出席議員の過半数の、出席議員に対する百分率(50%超)]の投票(ただし、投票する権利を含む)とは無関係に、常に、非人口比例選挙で選出された、主権を有しない国会議員が、出席議員の過半数決で、主権の行使の一つたる、内閣総理大臣を指名して、主権を行使するのであるから、人口比例選挙は、憲法1条(「主権の存する日本国民」)及び前文第1項第1文後段(「ここに主権が国民に存することを宣言し」)に違反する

(2) 他方で、人口比例選挙では、(主権を有する)全国民の過半数が、人口比例選挙で選出された国会議員を通じて、出席議員の過半数決で、(すなわち、間接的に、)内閣総理大臣を指名する(憲法1条及び前文第1項第1文後段;56条2項;前文第1項第1文前段)。

人口比例選挙では、(主権を有する全国民から人口比例選挙で選出された)主権を有しない国会議員が、その過半数決で、内閣総理大臣を指名することから、全国民の過半数主権を行使して、国会議員を通じて、その過半数決で、(間接的に、)内閣総理大臣を指名すると認められるので、人口比例選挙は、憲法(1条及び前文第1項第1文後段;56条2項;前文第1項第1文前段)適合する

(3) 2022参院選(ただし、1票の較差・3.03倍)は、人口比例選挙であり、又実務上合理的にできる限りの人口比例選挙でもない。

したがって、同選挙は、憲法56条2項;1条及び前文第1項第1文後段;前文第1項第1文前段に違反する。

【補遺】2021年衆院選の投票率(55.9%)の理由及び与党の得票率

(1) 2021年衆院選の投票率(55.9%)の理由:

日本の衆院選挙(非人口比例選挙)及び韓国、フランス、ブラジルの3か国の大統領選(いずれも、人口比例選挙)は、いずれも、行政権の唯一人の執行者(すなわち、内閣総理大臣又は大統領)を決定する選挙である点で、共通する。

下記の日本の衆院選の投票率(55.9%)は、下記の当該3か国の大統領選(人口比例選挙)のうちの最低の仏国大統領選の投票率(72.0%)と比べても、16.1%もの差があった。

・2021年10月衆院選(非人口比例選挙〈1票の較差・2.08倍〉):
投票率 55.9%
・2022年3月韓国大統領選(人口比例選挙):
投票率 77.1%
・2022年4月仏国大統領選(人口比例選挙):
投票率 72.0%
・2022年10月ブラジル大統領選(人口比例選挙):
投票率 79.4%

当該差は、【一方で、日本の衆院選挙が非人口比例選挙であり、他方で、当該3か国の大統領選がいずれも、人口比例選挙であること】と関係している可能性がある。

(2) 2021年衆院選比例代表で、与党の得票率47.04%:

2021年衆院選において、小選挙区は1票の最大較差2.08倍の非人口比例選挙であり、比例代表は1票の最大較差1.1倍の11ブロック制である。

下記表1のとおり、2021年衆院選において、与党(自民・公明)は、比例代表において、95議席(ただし、得票率・47.04%);小選挙区において、198議席(ただし、得票率・49.6%)の合計293議席(ただし、全465議席の63%=293人/465人×100)を獲得している。

表1
第49回衆議院議員総選挙

2021年(令和3年)10月31日施行
(wikipediaより抜粋)

党派 獲得議席 増減 小選挙区 比例代表
議席 得票数 得票率 議席 得票数 得票率
与党 293 -12 198 28,499,088.887 49.60% 95 27,029,165.000 47.04%
自由民主党 261 -15 189 27,626,157.887 48.08% 72 19,914,883.000 34.66%
公明党 32 +3 9 872,931.000 1.52% 23 7,114,282.000 12.38%
野党・無所属 172 +16 91 28,958,344.100 50.4% 81 30,433,982.420 52.96%
立憲民主党 96 -13 57 17,215,621.063 29.96% 39 11,492,115.660 20.00%
日本維新の会 41 +30 16 4,802,793.000 8.36% 25 8,050,830.000 14.01%
国民民主党 11 +3 6 1,246,812.000 2.17% 5 2,593,375.230 4.51%
日本共産党 10 -2 1 2,639,708.000 4.59% 9 4,166,076.000 7.25%
れいわ新選組 3 +2 0 248,280.000 0.43% 3 2,215,648.000 3.86%
社会民主党 1 1 313,193.000 0.55% 0 1,018,588.000 1.77%
―――(略)―――
総計 465 289 57,457,031.944 100.00% 176 57,465,978.890 100.00%
投票者数
(投票率)
58,901,616 55.93% 58,893,807 55.92%
有権者数 105,320,523 100.0% 105,320,523 100.0%

出典:令和3年10月31日執行 衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果(https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/data/shugiin49/index.html

2021年衆院選で、比例代表では、与党(自民・公明)の得票率は47.04%(過半数未満)、野党の得票率は52.96%(過半数)であったにも拘わらず、非人口比例選挙(ただし、小選挙区選挙で1票の較差2.08倍)であったため、与党(自民・公明)は、衆院定数465議席の中、293議席(63%)を獲得し、過半数決で、内閣総理大臣を指名した。

以上により、2021年衆院選は、憲法56条2項;1条及び前文第1項第1文後段;前文第1項第1文前段に違反する。

筆者:升永英俊 TMI総合法律事務所 日本国弁護士、米国ニューヨーク州弁護士、米国ワシントンDC弁護士

脚注   [ + ]

1. 編集代表竹内昭夫ら『新法律学辞典〔第3版〕』683頁(有斐閣 1990年);編集代表金子宏ら『法律学小辞典〔第3版〕』537頁(有斐閣 1999年);清宮四郎『憲法Ⅰ』93頁(有斐閣 1962年);芦部信喜・高橋和之補訂『憲法〔第7版〕』40頁(岩波書店 2016年);長谷部恭男『憲法〔第7版〕』13頁(新世社 2018年)。