(第5回)都市のカタチ:神戸

歩いて学ぶ都市経済学(中島賢太郎・手島健介・山﨑潤一)| 2023.02.24
都心に高層オフィスビルが林立しているのはなぜ? 原宿にアパレルショップが集中しているのはなぜ? この連載では、日本各地の都市で見られる何気ない風景の「なぜ」を取り上げ、その背後にあると考えられる経済学的メカニズムを解説するとともに、そのメカニズムをデータを使って検証した最先端の実証研究を紹介していきます。

(毎月下旬更新予定)

はじめに

もし関西に旅行などで訪れる際、神戸空港に降り立つことがあれば、空港から市街地への道中、橋から見える風景を注意深く観察してほしい。狭い中に海と港、高層ビルと山がひしめきあい、あまり日本の他の都市では見慣れない風景だと感じると思う。我々筆者の一人も神戸在住であるが、出張などから帰ってきてこの風景を見ると、家に戻ったなと一息つける、神戸を特徴づける風景である。

実はこうした地形と都市の発展には切っても切れない関係がある。例えばアメリカでかつて内陸水運が盛んだった時代には、河川を移動する船が滝にぶつかる地点でそれ以上移動できなくなってしまうため、その付近に街ができるといったことがあった (Bleakely and Lin 2012)。また港一つとっても、海や川があれば港が作れる、というものではない。船の停泊に適した深さが必要であるし、仮に適切な深さがあっても川から土砂が流れ込めば自然と港は使えなくなってしまう。例えば神戸のお隣、大阪の淀川沿いの港は、川で堆積する土砂のために、歴史を通じて何度も位置変更や改良工事を行っている。明治の初期にも開港場としての指定を受けるが、やはり土砂の堆積のためにその地位を短期間のうちに神戸港に譲っている。

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中島賢太郎 (なかじま・けんたろう)
一橋大学イノベーション研究センター准教授。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士 (経済学)。東北大学大学院経済学研究科准教授などを経て、2017年より現職。都市経済学・空間経済学を専門とする。スマートフォンGPSデータや歴史的データなど、幅広いデータを用いた実証研究を行っている。
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手島健介 (てしま・けんすけ)
一橋大学経済研究所教授。コロンビア大学経済学部博士課程修了 (Ph.D.)。メキシコ自治工科大学経済研究所助教授などを経て、2022年より現職。主にメキシコと日本のミクロデータをもとに、グローバリゼーションおよび都市にまつわる諸問題を研究している。
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山﨑潤一 (やまさき・じゅんいち)
神戸大学大学院経済学研究科講師。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス (LSE) 博士課程修了 (Ph.D.)。神戸大学大学院経済学研究科助教などを経て、2021 年より現職。開発経済学、応用ミクロ計量経済学を専門とする。明治期の鉄道や江戸期の農業投資など、日本の歴史的データを用いた実証研究を多く行っている。
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※本連載は、共同執筆です。著者順は慣例に従いアルファベット順としています。