(第1回)ゲイをカミングアウトした小学校の先生

シゲ先生と考える教育の中の多様性(鈴木茂義)| 2023.01.23
多様性尊重、LGBTQ+、セクシュアルマイノリティ、ジェンダー平等という言葉が聞かれて久しいですが、「多様性」とはいったいどのようなものなのでしょうか。自身がゲイであることをカミングアウトした小学校の先生が、学校や子どもとのエピソードを交えながら多様性について発信していきます。

(毎月下旬更新予定)

はじめに

はじめまして! こんにちは。鈴木茂義と申します。これから1年間、こちらで連載をすることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

小学校の先生をやっています。学校の中に「鈴木先生」が何人かいると区別がつかないので、子どもや同僚、保護者からは「シゲ先生」と呼んでもらっています。みなさんもどうぞお気軽に「シゲ先生」と呼んでください。

改めまして自己紹介をさせてください。出身は茨城県、年齢は44歳です。小学校の先生になって21年目です。7年前までは正規教諭として14年間、北海道や東京都で勤務していました。

私がなぜこちらで記事を書くことになったかというと、私自身がLGBTQ+のG(ゲイ・男性同性愛者)であることが理由の一つだと思っています。「多様性尊重」「LGBTQ+への理解啓発」「同性パートナーシップ制度」などの話題が世の中をにぎわす中で、小学校の先生であり、ゲイ当事者であるということにインパクトがあるのかもしれません。

私は7年前に、小学校の先生であり、ゲイであることをカミングアウトしたタイミングで、一度仕事を退職しました1)。周囲の反応が怖くて、安心安全な場所に身を隠そうとしたのがその理由でした。

その後1ヵ月ほどで、非常勤講師として小学校に復帰。算数の学力向上担当や、発達に特性のある児童の指導に携わってきました。また、小学校に勤務しながら、LGBTQ+をテーマとした講演会や出張授業を全国で行っています。

私自身、自分のセクシュアリティ(性的指向)であるゲイをオープンにして働く日が来るなんて、夢にも思っていませんでした。というのも、自分がゲイかもしれないと気づいた7歳のときから、カミングアウトをした37歳まで、自分のことを話したのはごく限られた人だけだったからです。

多様性についての理解を深めるためには

これまでも自分の経験をもとに、さまざまなところでお話をさせていただいていますが、多様性に関して大事なことは「多様性について理解を深め、自他の生き方を見つめること」「自分の中の思い込みや固定観念に気づくこと」だと考えています。

「多様性について理解を深める」ということに関しては、「知る」「感じる」「考える」「慣れる」ことがポイントかなと思っています。

当事者である私もLGBTQ+や多様な性について、知識として触れたり、教えてもらう機会が全くありませんでした。正しい情報がない中での思考は、多様性に関して抵抗感や違和感を抱くことにつながる可能性もあると感じています。

LGBTQ+の知識をもってから当事者に出会うのか、当事者に会ってからLGBTQ+の知識を獲得するのか、それは人によってさまざまかと思います。どちらの順番が正解というのもありません(まさに卵が先か、ニワトリが先か)。

講演会の中で気づいた「無意識の偏見」

ある市民向けの講演会で、LGBTQ+を入り口とした人権に関する講演をしたときのことでした。

イベント終盤の質疑応答で、「シゲ先生、LGBTQ+については理解した。頭でも理解できる。けれど自分の心の中に抵抗感が生まれてしまって、同性カップルやトランスジェンダーの方の映像を見るたびに違和感がある。これはどう解決したらよいのか?」と聞かれたことがあります。

私はそのとき、「新しい価値観、新しい人の生き方や側面、自分が知らなかった人との出会いは喜びと同時に不安や抵抗感を生み出す可能性もある。人がどう感じるかまで私はコントロールできない。私はLGBTQ+に関する知識と自分のこれまでの生き方を紹介することしかできない。感じ方は自由で大丈夫です。ただし、生まれた抵抗感が差別的な言葉や暴力的な行動に表出されると問題になります。それさえなければ大丈夫です」ということをお伝えしました。

するとその方は、安心した表情を浮かべて自席に座りました。またそれだけではなく、会場全体にもホッとした雰囲気が流れたのをよく覚えています。

人も多様性、世の中も多様性、生き方も多様性。もしかしたら私たちは「多様性疲れ」を起こしているのかもしれないと感じることもあります。多様性が大事なのはみんなわかっているのです。

けれど、その感じ方や理解度には個人差があり、中には「自分は多様性をちゃんと理解していないのではないか?」「心の中に抵抗感が生まれる自分はダメな人間なのではないか?」と不安や焦りを感じている方もいらっしゃることがわかりました。

何か人から責められるのではないか? 怒られるのではないか? という気持ちも、話してもらったことがあります。

そのときは繰り返し「生まれた抵抗感が差別的な言葉や暴力的な行動に表出されると問題になります。それさえなければ大丈夫です」ということをお伝えすると、事後アンケートでも「そう言ってもらってホッとした」「抵抗感がある自分を認識できてよかった」「だからこそ言動には気をつけたい」という感想をいただきます。

このようなプロセスで他者と関わり、自分を耕していく作業が共生社会の実現に向かうような気がします。私も講演会で人前に立って話していますが、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)が自分の中にありますし、それと向き合うために修行中です。

本当は「謹厳実直」「清廉潔白」な自分になりたかったのですが(笑)、私には無理そうなので、この人生は無意識の偏見と伴走することにしました。もちろん、それを限りなく0に近づける努力はしていますよ!

LGBTQ+だけが、世の中の多様性ではありません。多様性にはほかにもさまざまな切り口があると思います。

今後の連載で、それらのことをみなさんと一緒に考えていけたら嬉しく思います。どうぞよろしくお願いいたします。


◆この記事に関するご意見・ご感想をぜひ、web-nippyo-contact■nippyo.co.jp(■を@に変更してください)までお寄せください。


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脚注   [ + ]


鈴木茂義(すずき・しげよし)
公立小学校非常勤講師、プライドハウス東京理事、常設のLGBTQ+センタープライドハウス東京レガシーのスタッフ。専門は特別支援教育、教育相談、教育カウンセリングなど。LGBTQ+や教育に関する講演活動を行い、性の多様性やより良い「生き方」「あり方」について参加者と共に考えている。