AV新法と職業の自由(平裕介)(特集:2022年の新法・改正法を考える)

特集から(法学セミナー)| 2022.12.20
毎月、月刊「法学セミナー」より、特集の一部をご紹介します。

(毎月中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」816号(2023年1月号)に掲載されているものです。◆

特集:2022年の新法・改正法を考える

2022年になされた立法・法改正について、その法が制定されるに至った時代背景、意義、今後の課題や問題を検討する。

――編集部

1 はじめに

本稿で解説する法律は「令和4年法律性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」である。本法については「AV出演被害防止・救済法」や「AV新法」と略されることが多いことから、本稿でも便宜上「AV新法」あるいは単に「本法」、「法」ということとする。

本法は、法学部で学生が履修する憲法、民法、行政法さらにはジェンダー法学等といった複数の法領域の重要事項と関わる法律であるが、本稿では、主に行政法と憲法の観点から、本法の概要や問題点・論点のポイントについて解説を試みたい。以下、本法の概要(2)、「出演契約」と「売春」等の関係(3)、本法の憲法適合性(4)について論じ、最後に、本法が見直される際に考慮されるべき事項について言及する(5)。

2 AV新法の概要

定価:税込 1,540円(本体価格 1,400円)

本法は、「性行為映像制作物」(法2条2項、以下「AV」という。)の制作公表により出演者に取り返しの付かない重大な被害が生じるおそれがあり、また、現に生じていることに鑑み、AV出演に係る被害の発生や拡大の防止を図ることなどを目的とし(法1条)、実施及び解釈の基本原則(法3条)を前提として、出演契約(法2条6項)等に関する特則すなわち①締結に関する特則(法4条以下)、②履行等に関する特則(法7条以下)③無効、取消し及び解除等に関する特則(法10条以下)、④差止請求権(法15条)につき定め、さらに⑤プロバイダ責任法の特則(法16条)、⑥国等の相談体制の整備(法17条以下)、⑦AV制作公表者等に関する罰則等について規定した法律である。成年年齢引下げ(本特集橋本論文)により18~19歳の者がAV出演に係る契約を取り消せなくなることに国民の関心が高まったが、AV出演に係る被害は18~19歳の者だけに生じているわけではないことから、本法はすべての年齢・性別の出演者を保護するための法律として2022年6月に成立した(同月22日公布、翌23日施行)。主な法規制として、出演契約は書面によりAVごとにしなければならず(包括的な契約は許されない、法4条1項)、制作側に書面を示してする説明義務が課され(義務違反には罰則あり、法5条)、AV撮影は契約書面交付から1か月間は許されず(1か月ルール、法7条1項)、撮影終了から4か月間はAVを公表できず(4か月ルール、法9条)、公表後も1年間(施行日から2年経過するまでは2年間)は無条件・無理由で解除でき(任意解除、法13条1項、附則3条1項)、この解除により出演者は損害賠償義務を負わない(法13条3項)というものが挙げられる。なお、出演契約は、請負契約(民法632条)と準委任契約(民法656条)が混合した役務提供型契約と解されており1)、基本的にはメーカーと出演者との間で締結される契約2)といえる。

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脚注   [ + ]

1. 道垣内弘人『リーガルベイシス民法入門〔第4版〕』(日本経済新聞出版、2022年)208頁。
2. 出演者とプロダクションがマネジメント契約という名称の契約に某づき性行為映像制作物への出演をあっせんするという場合であっても、当該マネジメント契約は「出演契約」に該当すると考えられる(第208回国会衆議院内閣委員会議録22号〔令和4年6月14日〕16頁[足立康史、梅村聡]参照)。