(第7回)日本における「包摂」の過剰と「切断」の不在

日本のリーダーはなぜ決められないのか――経営に活かす精神分析(堀有伸)| 2022.07.21
経営における意思決定に、深層心理はどのような影響を与えているでしょうか。この連載では、日本の文化や慣習が組織のリーダーの「決断」にどのような影響を与えているかを、MBAで学んだ精神科医が、精神分析理論等を参照しながら明らかにしていきます。

(毎月下旬更新予定)

「切断」と「包摂」の原理

人間関係にまつわる人の行動は、大雑把にいって、「距離を縮めようとする行動」と、「距離を遠ざけようとする行動」の2つに分けられる。前者の代表は、誰かをハグして抱きかかえるような行動である。一方後者は、何かを別のものから「切り離す」行動である。少し抽象的なのだが、今回は前者を「包摂」、後者を「切断」と呼ぶことにする。

日本文化の特徴は、「切断」よりも「包摂」が優位なことである。日本社会では、「外部」と接触した結果として変革への動きが生じても、時間の経過とともにその変化を以前からの心性に沿った伝統的なものの一部として包摂してしまうことが多い。その例として、前回も取り上げた「武士道」が江戸時代にどのように変化したのかを見ておきたい。

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堀 有伸(ほり・ありのぶ)

精神科医。1997年に東京大学医学部卒業後、都内および近郊の病院に勤務しながら現象学的な精神病理学や精神分析学について学んだ。2011年の東日本大震災と原発事故を機に福島県南相馬市に移住し、震災で一時閉鎖された精神科病院の再開に協力した。2016年、同市内に「ほりメンタルクリニック」を開業。開業医となった後にグロービス経営大学院で学ぶ。著書に『日本的ナルシシズムの罪』(新潮新書)、『荒野の精神医学』(遠見書房)。