(第5回)プーチン‐ロシアが陥った苦境から何を学ぶか

日本のリーダーはなぜ決められないのか――経営に活かす精神分析(堀有伸)| 2022.05.20
経営における意思決定に、深層心理はどのような影響を与えているでしょうか。この連載では、日本の文化や慣習が組織のリーダーの「決断」にどのような影響を与えているかを、MBAで学んだ精神科医が、精神分析理論等を参照しながら明らかにしていきます。

(毎月下旬更新予定)

ロシア・ウクライナ戦争という危機

2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻を始めたことによる戦争は、戦力において劣ると見なされていたウクライナ陣営からの強力な反攻があり、3ヵ月近くが経過した時点においても終結の糸口すらつかめていない。その間にはロシア軍による民間人に対する残虐行為が行われてしまった。プーチン大統領をはじめロシアの関係者は、自分たちが現在陥っている、そして今後起こり得る苦境について、十分に予測していなかったのではないかと推測される。

そもそも、これだけ科学技術や社会制度が進展した現代において、今回のような古典的なかたちの戦争が起きてしまったことへの戸惑いを感じている人も少なくはない。世界中のあらゆる人々が「基本的人権」を認められ、世界が統一された市場としてグローバルなビジネスが展開され、その世界の発展と進歩によって政治的・社会的な問題の多くが解決されていき、最も憂慮される問題は環境である、そういう世の中が続いていくことを信じていた人もいるだろう。しかし今回のロシアとウクライナの問題によって、世界は再び、アメリカ‐ヨーロッパを中心とする自由を旗印とした陣営と、それに対抗するロシアなどが核となる陣営に二極化する、つまり安全保障が最優先の課題となる「新冷戦」といった状況に逆戻りするのではないかという懸念まで生じている。

今回は、この歴史的な事態について考察した後、ある日本企業の例を参照し、「普遍的な理念」の価値について考えてみたい。

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堀 有伸(ほり・ありのぶ)

精神科医。1997年に東京大学医学部卒業後、都内および近郊の病院に勤務しながら現象学的な精神病理学や精神分析学について学んだ。2011年の東日本大震災と原発事故を機に福島県南相馬市に移住し、震災で一時閉鎖された精神科病院の再開に協力した。2016年、同市内に「ほりメンタルクリニック」を開業。開業医となった後にグロービス経営大学院で学ぶ。著書に『日本的ナルシシズムの罪』(新潮新書)、『荒野の精神医学』(遠見書房)。