(第12回・最終回)プラセボ効果

こころのくすり、くすりのこころ(渡邉博幸)| 2021.09.08
「いつまでくすりを飲まないといけないの?」「副作用が心配です」「今のくすりが合わない気がする……」。精神科のくすりを服用する際、当事者や家族は疑問や不安を抱くことがあるでしょう。くすり以外の方法を用いることも大切です。医療者が一方的に治療を提供するのではなく、当事者・家族・支援者が見通しを共有し、よりよい治療につながる工夫を考えます。

(毎月上旬更新予定)

プラセボ効果とノセボ効果

プラセボ効果とは、医学的効果のない物質でも、服用者がその物質が有効であると信じて服用することで、健康状態が改善することを言います。逆にノセボ効果とは、医学的効果のない物質でも、服用者の否定的な信念や予想によって健康状態を悪化させるものと定義されています。

精神疾患においては、うつ病や不安障害、さらには統合失調症でさえも、また、慢性疼痛や脳神経内科的疾患、循環器疾患、肝疾患や糖尿病でも、これらの効果がみられることが知られています。プラセボ効果やノセボ効果は、新しいくすりの有効性や副反応を評価する際のバイアスとなるため、臨床薬理学的には、これらがどうして生じるのか、どのように真の効果や副反応と区別するのかが大きな課題となっています。

現在、科学的で厳密な臨床試験には、無作為(ランダム)化比較試験(randomized controlled trial:RCT)という方法が用いられます。RCTとは、ある疾患患者を無作為に(たとえば乱数表などを使って、試験実施者の恣意的な選択が介在しないように)、実薬群と対照群(偽薬群)に割り付け、治療的介入以外は、対象集団の特性などが同一になるようにしたうえで行われる試験です。

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渡邉博幸(わたなべ・ひろゆき)
千葉市にある都市型の精神科専門病院である木村病院で働いています。とくに専門をもたずにいろいろな患者さんを診ていますが、最近は産後メンタル不調の方や若い方に多くかかわっています。薬のこと、こころのこと、暮らしのこと、さまざまな困りごとに、いろいろなスタッフと協力し試行錯誤しながら答えを探す毎日です。著書:『統合失調症治療イラストレイテッド』(星和書店)ほか。