(第11回)「副反応」を考える

こころのくすり、くすりのこころ(渡邉博幸)| 2021.08.05
「いつまでくすりを飲まないといけないの?」「副作用が心配です」「今のくすりが合わない気がする……」。精神科のくすりを服用する際、当事者や家族は疑問や不安を抱くことがあるでしょう。くすり以外の方法を用いることも大切です。医療者が一方的に治療を提供するのではなく、当事者・家族・支援者が見通しを共有し、よりよい治療につながる工夫を考えます。

(毎月上旬更新予定)

お盆に思い出すこと

毎年この時期、診療で患者さんとの間で話題に上るのは、お盆のことです。次の予約日を決める際に「8月のお盆期間の外来は休診ですか?」と尋ねられたり、「7月は新盆(にいぼん)で忙しいので、そこを外して予約を入れてください」と念を押されたりといったことが、毎年繰り返されます。年中エアコンで温度の保たれたなか、窓のない診察室で仕事をしていても、患者さんとの会話に混じる伝統行事の話題に季節の移ろいを感じ、月日が経つ早さを実感する瞬間です。

私が生まれ育ったところは「月遅れ盆」といって、8月13~16日にお盆の行事をします。全国的にみても、この期間に先祖のお墓参りをしたり、花火大会や納涼盆踊り、精霊流しなどの行事を行うところが多いですね。帰省ラッシュもすでに季節の風物詩といったところでしょうか。しかし、仕事をするようになってから患者さんに教えてもらったのですが、一部の地域を除く東京や東北・北陸などでは新暦7月15日前後にお盆の行事が行われ、沖縄・奄美地方では旧暦(太陰暦)7月15日に行う地域もあるということです。その土地の産業や習わしに密接にむすびついた大切な風習だからこそでしょう。

お盆は、祖霊を供養すると同時に、故人の生き方や生前の言葉、市井の一庶民であったとしても代々大切にしている家族の歴史や文化、守り引き継ぐべきものを、若い世代に伝承する機会であると思います。また、親戚同士が一年の出来事を伝え合ったり、困りごとを相談したりする場にもなっています。終戦記念日が重なっていることもあって、私が子どもの頃は、ゴザ敷きに張った蚊帳のなかで、盆棚の両脇に対に並んだ走馬灯からぼんやりと光る赤や緑の影を見ながら、戦時中の食糧難や戦死した親戚の話などを古老から聞かされました。子ども心に、晴れやかで長閑なお正月の雰囲気とはまた違った、怖いような懐かしいような不思議な気持ちに包まれたものでした。生活のなかでの禁忌や人の暮らしのつらく痛ましい一面、先代の歴史を年長者から問わず語りで聞かされることで、集団の記憶として身に沁みこませて引き継いでいく習わしでもあったのかもしれません。

今では夏休みの旅行シーズンのイメージが強いお盆ですが、昔からの風習を守り、親戚が集まる機会になっているご家庭も多いのではないかと思います。しかし、昨年に続き今年も新型コロナウイルスが猛威をふるうなか、帰省で長距離を移動したり、親戚と一緒に飲食したりすることは憚られる日常です。ことに医療関係者のいるご家庭では、神経質すぎるくらい、他人との接触を避けて過ごしているのではないでしょうか。

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渡邉博幸(わたなべ・ひろゆき)
千葉市にある都市型の精神科専門病院である木村病院で働いています。とくに専門をもたずにいろいろな患者さんを診ていますが、最近は産後メンタル不調の方や若い方に多くかかわっています。薬のこと、こころのこと、暮らしのこと、さまざまな困りごとに、いろいろなスタッフと協力し試行錯誤しながら答えを探す毎日です。著書:『統合失調症治療イラストレイテッド』(星和書店)ほか。