夫婦同氏制と憲法24条(篠原永明)(特集:家族と法のゆくえ─親子・夫婦・婚姻と法の役割)

特集から(法学セミナー)| 2021.07.16
毎月、月刊「法学セミナー」より、特集の一部をご紹介します。

(毎月中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」799号(2021年8月号)に掲載されているものです。◆

特集:家族と法のゆくえ――親子・夫婦・婚姻と法の役割

男女が結婚し、子どもを産み、育てることが、一般的な家族のかたち──そう言われていた時代から、選択の可能性が広がりつつある現在、日本の社会では、家族のかたちが多様化してきています。こうした変化に対応するべく、法制審議会では、民法・家族法の規定を見直すための検討が行われています。
そこで本特集では、民法、法制史、憲法、刑法の観点から、これからの家族と法の役割を考えます。

――編集部

1 はじめに

民法750条によれば、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」とされる1)。婚姻する男女は、婚姻の際にいずれの氏を称するか選択することが求められ、どちらか一方は氏を改めることになる(夫婦同氏制)。この夫婦同氏制について、平成27年12月16日の最高裁判決は2)、憲法24条の規範内容を明らかにした上で、憲法24条から導出される考慮事項を踏まえた国会による制度形成の合理性という観点から、夫婦同氏制は憲法24条に違反するものではないと判断した(以下、「夫婦同氏制合憲判決」)。

もっとも、夫婦同氏制合憲判決の採用した合憲性の判断枠組みや結論に対しては、多くの批判がなされている3)。確かに、夫婦同氏制合憲判決における憲法24条適合性の判断には、多くの考慮事項を単純に列挙し、それらの総合考慮を行った結果、どれが夫婦同氏制において決定的な考慮事項であったのか不明確なものとなっているなど、問題があることは否定できない4)。合憲違憲いずれの結論を出すにせよ、憲法24条の規範内容に照らし夫婦同氏制の合理性をどのように審査すべきか、議論の方向性を整理しておく必要はある。

また、夫婦同氏制合憲判決を承けて、現在、夫婦同氏制は同氏希望者と別姓希望者との間で「信条」による差別的な取扱いを行うもので憲法14条1項に違反するというように、憲法24条とは異なる切り口から夫婦同氏制の合憲性が争われている5)。しかし、夫婦同氏制の改正を目指すとすれば、現行の民法790条に代わる子の氏の決定の仕組みについても検討が必要となり、やはり婚姻及び家族に関する基本規定である憲法24条からの考察は避けて通れないであろう。

そこで本稿では、氏に関する民法の諸規定と(2)、夫婦同氏制合憲判決が示した憲法24条の規範内容について確認した上で(3)、夫婦同氏制の憲法24条適合性の判断について、氏の法的性格と関連付けながら、議論の方向性を整理することにしよう(4)。また、夫婦同氏制を改正する場合に子の氏の決定の仕組みをどうすべきかという点も、憲法24条の観点から検討しておくことにしたい(5)6)

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脚注   [ + ]

1. 民法750条の解説として、二宮周平編『新注釈民法(17) 親族(1)』(有斐閣、2017年)165-182頁[床谷文雄]、松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール親族〔第2版〕』(日本評論社、2019年)56-61頁[窪田充見]。
2. 最大判平成27・12・16民集69巻8号2586頁。
3. 高橋和之「夫婦別姓訴訟」世界879号(2016年)143-149頁、小山剛「判批」ジュリ1505号(2017年)22-23頁、巻美矢紀「憲法と家族」長谷部恭男編『論究憲法』(有斐閣、2017年)342-344頁、348頁などを参照。
4. 拙稿「婚姻・家族制度の内容形成における考慮事項とその具体的展開」甲南法学58巻3・4号(2018年)57-60頁を参照。
5. 東京地判令和1・10・2判時2443号55頁、東京高判令和2・10・20LEX/DB:25571233。
6. 最終的には戸籍法の分析も必要になってこようが、形式法である戸籍法の分析には実体法たる民法の分析が先行するはずである(松川ほか編・前掲注1)61頁[窪田充見]も参照)。本稿では、氏に関する民法の規定に限定して検討を行う。