(第5回)服薬を続けること

こころのくすり、くすりのこころ(渡邉博幸)| 2021.02.04
「いつまでくすりを飲まないといけないの?」「副作用が心配です」「今のくすりが合わない気がする……」。精神科のくすりを服用する際、当事者や家族は疑問や不安を抱くことがあるでしょう。くすり以外の方法を用いることも大切です。医療者が一方的に治療を提供するのではなく、当事者・家族・支援者が見通しを共有し、よりよい治療につながる工夫を考えます。

(毎月上旬更新予定)

服薬コンプライアンスと服薬アドヒアランス

統合失調症や双極性障害の治療では、くすりの治療を中断しないこと、服薬を続けることが、再発や再入院を防ぐ重要な鍵となります。

従来は、治療を中断してしまうのは当事者の問題であり、そのような当事者に「医療者側が決定した治療方針(くすりを飲むこと)をいかに守らせるか」という服薬コンプライアンス(遵守)の視点で論じられていました。この考え方では、当事者が服薬を自分で管理できない場合は、家族にその役目を任せるとか、デイケアや訪問看護で管理するなど、当事者の行動管理という発想に傾きがちでした。

しかし、これでは、医療者と当事者・家族の間で、くすりを「飲ませる側・飲む側」という上下関係(パターナリズム)や対立構造が生じてしまうことになり、当事者本位の治療を行うことができません。その反省から、今日では、服薬アドヒアランスという概念に置き換わってきています。

服薬アドヒアランスと服薬コンプライアンスの違いは、前者が「当事者は治療に従順であるべき」というイメージからの脱却を意識していることです。服薬アドヒアランスの考え方では、服薬を継続できないのは当事者だけの問題ではなく、①治療薬の要因、②当事者側の要因、③医療者側の要因、そして④治療関係の要因といった課題が背景にあり、その解決のためには、複合的な視点で取り組むことが求められます。さらには、当事者が盲目的に治療方針に従うのではなく、自身の希望や意思をもって、積極的に治療の方針決定に参加し、それを理解して治療を受けること、それが可能になるような情報提供や意思決定の仕組みを医療者側が整える努力をすることが必要になります。

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渡邉博幸(わたなべ・ひろゆき)
千葉市にある都市型の精神科専門病院である木村病院で働いています。とくに専門をもたずにいろいろな患者さんを診ていますが、最近は産後メンタル不調の方や若い方に多くかかわっています。薬のこと、こころのこと、暮らしのこと、さまざまな困りごとに、いろいろなスタッフと協力し試行錯誤しながら答えを探す毎日です。著書:『統合失調症治療イラストレイテッド』(星和書店)ほか。