1票の格差訴訟2020年最高裁大法廷判決(参)の意義と抜本的選挙制度改革案:2014年大法廷判決(参)と2017年大法廷判決(参)を踏まえて(升永英俊)

2021.01.22

去る2020年11月18日に、いわゆる「一票の格差訴訟」の8つ目の最高裁大法廷判決が下されました。原告代理人の弁護士であり、下の著書がある升永英俊氏による同判決に関する論評です。

・升永英俊『統治論に基づく人口比例選挙訴訟』(日本評論社、2020年3月)
・同『統治論に基づく人口比例選挙訴訟Ⅱ』(日本評論社、2020年9月)
・同『統治論に基づく人口比例選挙訴訟Ⅲ』(日本評論社、近刊)

1 最大判令2・11・18――8つ目の最高裁大法廷判決

去る2020年11月18日、2019年7月21日施行の参議院選挙(選挙区)(1票の最大較差は、1〔福井県選挙区〕対3.00〔宮城県選挙区〕)にかかる選挙無効請求訴訟(いわゆる1票の格差訴訟)の最高裁大法廷(「留保付き合憲」)判決(以下、最高裁大法廷判決を大法廷判決ともいう)が言い渡された(最大判令2・11・18裁判所ウェブサイト)。

筆者は、久保利英明弁護士、伊藤真弁護士らとともに、2009年~2019年の10年間に、各国政選挙毎に、全国の各高裁で106個の選挙無効訴訟を提訴した。

[1] 2011年大法廷判決(衆)(「違憲状態」判決)
[2] 2012年大法廷判決(参)(「違憲状態」判決)
[3] 2013年大法廷判決(衆)(「違憲状態」判決)
[4] 2014年大法廷判決(参)(「違憲状態」判決)
[5] 2015年大法廷判決(衆)(「違憲状態」判決)
[6] 2017年大法廷判決(参)(「留保付合憲」判決)
[7] 2018年大法廷判決(衆)(「留保付合憲」判決)
[8] 2020年大法廷判決(参)(「留保付合憲」判決)

2009年8月30日衆院選(小選挙区選出)の1票の最大較差は、1対2.30であった。

最高裁大法廷判決は、2011年に、2009年8月30日衆院選(小選挙区選出)につき、1人別枠方式は、「違憲状態」であると認めて、「違憲状態」判決を言渡した。

直近の衆院選(小選挙区選出)(2017/10/22)の1票の最大較差は、1対1.98である。

2011年2013年、2015年の3個の大法廷判決(衆)の後、2016年改正法(アダムズ方式採用)が成立し、2022年以降の衆院選では、人口の48.3%が衆院議員の過半数(50.1%)を選出するようになる。

2010年7月11日参院選(選挙区選出)の1票の最大較差は、1対5.00であった。2019年7月21日参院選(選挙区選出)の1票の最大較差は、1対3.00であった。

2012年最高裁大法廷(参)は、都道府県を各選挙区の単位とする選挙制度は「違憲状態」である旨判示した。

2012年、2014年に2個の大法廷判決(参)(「違憲状態」判決)が言渡され、2017年大法廷判決(参)(「留保付合憲」判決)が言渡された。

2 2017年大法廷判決(参)・2014年大法廷判決(参)との関係

2014年大法廷判決(参)は、「都道府県を単位とする選挙制度」「自体の見直しが必要である」旨判示した(最大判平26・11・26民集68巻9号1375~1376頁)。

ところが、2017年大法廷判決(参)は、「各選挙区の区域を定めるに当たり、都道府県という単位を用いること自体を不合理なものとして許されないものとしたものではない」と判示した(最大判平29・9・27民集71巻7号1139頁)。この判示は上記の2014年大法廷判決(参)の判断を変更したものである。

しかし、2017年大法廷判決(参)の当該判示は、2014年大法廷判決(参)の判示が誤りであったが故に、これを変更したとする、十分説得力のある理由を付記していない。したがって、2017年大法廷判決(参)の上記判示は、不当な判例変更と解すべきである。

ところが、今回の2020年大法廷判決(参)の判決文には、上記の2017年大法廷判決(参)にあるような「各選挙区の区域を定めるに当たり、都道府県という単位を用いること自体を不合理なものとして許されないものとしたものではない」の文言が存在しない。

つまり、2020年大法廷判決(参)は、2017年大法廷判決(参)の判例に従わず、2014年大法廷判決(参)の判示、すなわち、都道府県を各選挙区の単位とする従来の選挙制度自体の見直しが必要であるという判示に従ったと解される。したがって、2020年大法廷判決(参)は、2014年大法廷判決(参)の判例に従って、抜本的見直しの参議院選挙制度改革の実現を要求していると解される。

3 2020年大法廷判決(参)の「その実現」の意味

今回の2020年大法廷判決(参)は、

「(2018年)改正は、……(略)……数十年にわたって5倍前後で推移してきた最大較差を前記の程度まで縮小させた(2015年)改正法の方向性を維持するよう配慮したものであるということが出来る。また、参議院選挙制度の改革に際しては、憲法が採用している二院制の仕組みなどから導かれる参議院が果たすべき役割等も踏まえる必要があるなど、事柄の性質上慎重な考慮を要することに鑑みれば、その実現は漸進的にならざるを得ない面がある。」(強調 引用者)

と判示する。

同判示の末尾の「その実現は漸進的にならざるを得ない」の「その実現」とは、2015年公職選挙法改正法(附則7条を含む)の実現を指すと解される。同法附則7条は、『次回の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得る』旨定めている。

ということは、2020年大法廷判決(参)は、漸進的に選挙制度の改革を行うことは許容されるが、『(都道府県を単位とする各選挙区の)選挙制度の抜本的見直しは、最終的には実現さるべきである』旨判示していると解される。

4 2009年以降の参議院議員選挙の選挙制度改革

参議院議員選挙の選挙制度改革に関しては、2009年以降をみても、参議院選挙制度改革協議会専門委員会で、ブロック案(11ブロック案と9ブロック案)と多数の合区案(10合区案)の2つが議論されてきた経緯に照らして、参議院選挙制度改革案は、ブロック案と多数の合区から成る合区案に絞られると予測される。

もっとも、多数の合区制(例えば、10合区制)は、合区の対象とならない都道府県が20前後残存することになる。これらの20前後の都道府県の各選挙区は、都道府県を選挙区の単位として、残存し続けるので、2014年大法廷判決(参)「都道府県を単位とする選挙制度」「自体の見直しが必要である」旨の判示に反することになる。

「合区」案については、「合区の解消を強く望む意見も存在する」(2020年大法廷判決(参)13頁参照)中で、それが成案となる見込みは乏しいと予測される。

一方、11ブロック案(公明党)では、一票の最大較差は、1(四国ブロック)対1.131(北関東ブロック)である1)。そして、9ブロック案(故西岡武夫参議院議長)では、一票の最大較差は、1(関西ブロック)対1.066(北海道ブロック)である2)。よって、11ブロック案(公明党)、9ブロック案(故西岡武夫参議院議長)のいずれも、実務上の人口比例選挙である。もっとも、上記の9ブロック制、11ブロック制のいずれも、完全な人口比例選挙とはいえないが。

5 人口比例選挙の意義

① 「両議院の議事」(すなわち、[1] 立法の決定の決議;[2] 行政権の長(内閣総理大臣)の指名の決議を含む)は、出席議員の過半数で決定される(憲法56条2項)。

② 日本国民は「主権」を有している(憲法1条)。

③ 「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」(憲法前文第1文冒頭)する。

すなわち、「主権」を有する国民は、「正当に選挙された国会における代表者を通じて」、国民の過半数の意見で両議院の議事」を決定する(憲法56条2項、1条、前文第1文冒頭。統治論)。人口比例選挙のみが、【主権者である国民の過半数の意見が国会議員の過半数の意見と一致すること]を保障する。

人口比例選挙が憲法前文第1文冒頭に定める「正当(な)選挙」である。


升永英俊 弁護士


【関連する本】
・升永英俊『統治論に基づく人口比例選挙訴訟』(日本評論社、2020年3月)
・升永英俊『統治論に基づく人口比例選挙訴訟Ⅱ』(日本評論社、2020年9月)
・升永英俊『統治論に基づく人口比例選挙訴訟Ⅲ』(日本評論社、近刊)

脚注   [ + ]

1. 参議院改革協議会選挙制度に関する専門委員会報告書(平成30年5日7日)【→PDF】76頁。
2. 参議院ホームページ【→PDF】