(第4回)法セミ2020年7月号の学び方のポイント&例題

Webでも!初歩からはじめる物権法(山野目章夫)| 2020.05.14
本コーナーは、雑誌「法学セミナー」と連動した企画です。
連載に先だって、次回取り扱う内容のポイントと例題を掲載していきます。予習に、力試しに、ぜひご活用ください。そして、「法学セミナー」本誌もあわせてご覧ください。初学者の強い味方となる「初歩からはじめる物権法」、2020年4月号より連載開始です!

(毎月中旬更新予定)

連載第4回の「学び方のポイント」

新年度から装いを新しくした雑誌「法学セミナー」において「初歩からはじめる物権法」という連載を進めている筆者は、その連載の講述範囲である物権法を含む民法の全般について、じつは警察学校においても講義をする機会があります。

警察官といえば刑法や刑事訴訟法の勉強が必須であるということが容易に理解されるとともに、なぜ民法を学ばなければならないか、という疑問を感ずるかもしれません。

泥棒の被害に遭ったとしましょう。大切にしていた物(民法の概念整理では、おそらく動産に当たるもの)が盗まれました。被害者が関心を抱くことは、何でしょうか。困っている被害者は、臨場した警察官にいろいろ吐露することでしょう。「おまわりさん、速く犯人を捕まえてください」、「それから、盗まれた物は戻ってくるでしょうか」。前者は、まさに警察の得意とするところであり、ただちに緊急配備などがされます。後者も、ふつうに常識で考えたら、戻ってきます、という答えになるでしょう。「でも、犯人が物を別な人に売り飛ばしてしまったならば、どうなりますか」と更に尋ねられて、一瞬、うっ、と詰まり、そのあとに想定される2つの答えのうち、どちらが警察というものに対する市民の信頼や親しみを得ることができるでしょうか。

ひとつ、「それは民事のことであり、警察の仕事ではありませんから、お尋ねをいただいても困ります」、もうひとつ、「民事のことですから精確なところは申上げることができませんが、民法には即時取得という制度があるようですから、それによるとどのようなことになるか、法律の専門家に御相談になってみてはいかがでしょうか」、皆さん、自ずと正解はおわかりですね――などという口調で警察学校の講義が進みます。

連載の第4回は、動産に関する物権変動を扱いますから、いまの警察学校の講義と同じ話などを御一緒にお考えいただきたいという、お誘いを差し上げます。

連載第4回の「例題」

【例題1】
Aは、その所有する動産甲をBに賃貸している。AがCに動産甲を売った場合において、Cは、Bに対し動産甲の引渡しを請求することができるか。賃貸でなく、AがBに対し動産甲を寄託していた場合は、どうか。

【例題2】
即時取得の成否をさまざまな場面について考えてみよう。

 (1) 民法の授業が終わった時、幸子さんは、隣席の彩加さんの六法を自分のものであると思い込んで鞄に入れ、帰宅した。

 (2)  歴史家の戸村教授は、古本屋に陳列されていた古文書を借りることにした。やはり歴史家の権藤博士は、その古文書が戸村教授の手許にあることを羨ましく感じた。権藤博士は、古文書を売らなければ過去の研究費の不正を暴露すると戸村教授を脅し、安価で古文書を買い、引渡しを受けた。

 (3) 画商は、外国の美術館から絵画を借り受け、展示していた。客は、それを買いたいと申し入れて代金を支払ったうえ、運搬の準備が調うまで画商に絵画を預かってもらうことにした。やがて客は、絵画が外国の美術館が所有するものであることに気づくが、運搬のために画商を再訪し、絵画を引き取った。


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山野目章夫(やまのめ・あきお 早稲田大学教授)
1958年生まれ。亜細亜大学法学部専任講師、中央大学法学部助教授を経て現職。
著書に、『不動産登記法 第2版』(商事法務、2020年)、『ストーリーに学ぶ 所有者不明土地の論点』(商事法務、2018年)、『詳解 改正民法』(共著、商事法務、2018年)、『新・判例ハンドブック1、2』(日本評論社、2018年)、『物権法 第5版』(日本評論社、2012年)など。