特集:法学入門2020

特集から(法学セミナー)| 2020.03.18
毎月、月刊「法学セミナー」より、特集の一部をご紹介します。

(毎月中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」783号(2020年4月号)に掲載されているものです。◆

特集:法学入門2020

各法律の研究者である大学の先生たちが、この春から法を学びはじめる読者に向けて、法律学のおもしろさ・奥深さを伝える入門企画です。

いろいろな大学の講義に参加するような気持ちで、関心のある科目から読みはじめてみてください。

――編集部

自己紹介からはじめる憲法学

堀口悟郎(ほりぐち・ごろう 岡山大学准教授)

1 はじめに

新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。ここでは、初回のゼミをするような感じで、憲法のお話をしたいと思います。

初回のゼミというと、最初にするのは自己紹介ですね。私は堀口悟郎と申します。岡山大学で憲法の教員をしています。生まれは神奈川県の藤沢市というところで、中学までそこで暮らしていました。中学を卒業すると、高校、大学、法科大学院と東京の学校に進学したため、都内で一人暮らしをしました。それから、司法修習で福岡市に1年間住み、都内の母校に戻って1年間研究をしてから、福岡市にある九州産業大学で4年半勤務しました。そして、昨年の10月から岡山大学で働いています。趣味は映画鑑賞で、講義でもよく映画を上映します。どうぞよろしくお願いします。

こんな感じで自己紹介をしてから、ゼミ生にも自己紹介をしてもらい、それからゼミの概要などについて説明すると、1時間くらい経ちます。そこですかさず「今日は初回なので、ちょっと早めに終わりましょうか?」なんてことをいうと、ゼミ生の表情がパッと明るくなるのですが……いくら「初回のゼミをするような感じで」といっても、ここで筆をおくわけにはいきません。本題に入りましょう。

憲法学というと、みなさんの生活にはあまり関係がない学問だと思われるかもしれません。たしかに、憲法の条文を読んでみると、前文から「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し……」と物々しい感じではじまり、1条に進んでも「天皇は、日本国の象徴であり……」という調子ですから、そんな印象をもたれるのも無理はないと思います。世間でも、憲法といえば「9条」や「憲法改正」ばかりが話題になりますので、「日本国としていかなる決断を下すべきか」といった壮大な議論をするのが憲法学だ、と思われるのは自然なことでしょう。

しかし、そうした印象は、半分正しく、半分誤りです。たしかに、憲法学では国家の権力や国民の人権について議論しますので、法学のなかでは「壮大」な学問といえるかもしれません。けれども、そこで扱われる具体的なトピックは、みなさんの生活に身近なものが多いのです。たとえば、先ほどの自己紹介。自己紹介をするときは、必ずといってよいほど、自分の出身地について話しますよね。実は、この「どこで暮らしてきたか」ということも、広い意味では憲法問題なのです。

ここで憲法の第8章を読んでみましょう。この章には、「地方自治」というタイトルが付けられています。地方自治とは、ザックリいえば、「地方のことは地方自身で、住民の意見に従って決める」ということです。たとえば、憲法94条には、「地方公共団体は……条例を制定することができる」と書かれています。ここでいう「地方公共団体」とは、一般にいう地方自治体のことで、具体的には岡山県や福岡市などを指します。そして、「条例」とは、地方自治体が自主的に定める法的ルールのことです。つまり、この条文は、地方自治体がそれぞれ独自の法的ルール(いわば「ご当地条例」)を定めてよい、ということを規定しているのです。住民の立場からすれば、住んでいる地域によって適用される法的ルールが異なる、ということになります。「どこで暮らしてきたか」が憲法問題だというのは、こういう意味です。

以下では、実際にどのような条例が制定されているのか、具体的にみてみましょう1)。全国にはユニークな条例がたくさんありますが、ここでは私が現在住んでいる岡山県と、最近まで住んでいた福岡県の条例を取り上げたいと思います。

1) 地域ごとの憲法問題は、もちろん条例だけに限られるものではありません。この点について広く学んでみたいという方には、新井誠=小谷順子=横大道聡編『地域に学ぶ憲法演習』(日本評論社、2011年)をおすすめします。

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