「法学セミナー」誌で連載、はじめます!

Webでも!初歩からはじめる物権法(山野目章夫)| 2020.02.21
本コーナーは、雑誌「法学セミナー」と連動した企画です。
連載に先だって、次回取り扱う内容のポイントと例題を掲載していきます。予習に、力試しに、ぜひご活用ください。そして、「法学セミナー」本誌もあわせてご覧ください。初学者の強い味方となる「初歩からはじめる物権法」、2020年4月号より連載開始です!

(毎月中旬更新予定)

「土地の相続登記、義務化―所有者不明で対策―法制審原案」──2019年11月26日の日本経済新聞の夕刊は、一面トップでこのような記事を掲げています。

ということは、今は、登記は義務ではなく、してもしなくてもよい、ということのようです。してもしなくてもよいとしたら、登記って、なんのためにあるものでしょうか。なにかモヤモヤした不思議な気持ちになります。

このWebマガジンを運営している日本評論社刊行の紙雑誌「法学セミナー」において、「初歩からはじめる物権法」という連載を始めることにしました。いまのようなモヤモヤした話をすっきりさせなければなりません。

初回の4月号では、次のような話題を扱います。

法学セミナーは、法律を勉強する学生諸君のための学習雑誌ですが、学生でない方々も興味があれば、ぜひご覧ください。連載の対象となる分野は、民法のなかでも、175条から後の物権法です。ご紹介した新聞記事のように、日々の社会の動きにも関わる側面をもっている物権法の世界を多くの方々に覗いていただければ、うれしいです。

連載第1回の「学び方のポイント」

    〇 175条の「物権の設定及び移転」、177条の「物権の得喪及び変更」、そして178条の「物権の譲渡」、これらは似た表現だが、どのように意味が異なるか。
    〇 不動産の売買契約が成立した場合において、登記をすることは、どのような意味をもつか。登記がされないと不利益を受ける者は、売主、買主、政府、国民、これらのうち誰か?
    〇 売主となろうとする者が所有する不動産の売買契約が成立した場合において、買主が所有者になる時期は、契約が成立した時、不動産を買主に引き渡した時、買主を登記名義人とする登記がされた時、代金を支払った時、これらのうちのどれ?
    〇 177条の「第三者」という言葉は、日ごろ人々が普通に用いる「第三者」と意味が異なるか?
    〇 当事者のみならず当事者の包括承継人も第三者ではないとされる。包括承継人とは何か? 一般承継人と意味が異なるか?
    〇 当事者の財産の全部を承継する相続人は包括承継人であるのに対し、相続分が3分の1である相続人は全部を承継しないから包括承継人ではない――という意見がある。本当だろうか?
    〇 177条の第三者とは、互いに食うか食われるか、の関係にある者らをいう、と説明されることがある。人を食べてしまうとはまた、残酷ではないか。“食う”とは、何を意味するか?
    〇 不動産が二重に譲渡されたが、いずれの譲受人も登記をしていない。その場合の解決は、どうなるか。

連載第1回の「例題」

【例題1】

甲土地は、Aが所有し、Aを登記名義人とする所有権の登記がされていた。A・Bは、AがBに対し甲土地を売る契約をした。

(1) Bは、Aから地上権の設定を受け、この地上権に基づき甲土地を使用しているCに対し、甲土地の明渡しを請求することができるか。

(2) Bは、Aから甲土地を賃借し、この賃貸借に基づき甲土地を使用しているDに対し、甲土地の明渡しを請求することができるか。また、Bは、Dに対し賃料を請求することができるか。

(3) Bは、Aに対し有する債権に基づき甲土地を差し押さえたEに対し、差押えに基づく強制執行を許さないとする判決を求めることができるか。

【例題2】

甲土地は、Aが所有し、Aを登記名義人とする所有権の登記がされていた。A・Bは、AがBに対し甲土地を売る契約をした。Bへの登記がされないうちに、Aが死亡し、Aの子であるC・D・Eが相続人となった。Cは、Bが登記をしていないことを指摘し、Bの所有権を認めない、という意見を述べるにあたり、つぎのような言い分を述べた。この言い分は、正しいか。

(Cの言い分)当事者の財産の全部を承継する相続人は包括承継人であるのに対し、相続分が3分の1である相続人は全部を承継しないから包括承継人ではない。

【例題3】
甲土地は、Aが所有し、Aを登記名義人とする所有権の登記がされていた。A・Bは、AがBに対し甲土地を売る旨の契約をした。

(1) しかし、なかなかAが登記の手続をしないことから、Bは、不動産の取引に関し経験が豊かなCにAとの交渉を依頼した。これを承諾したCは、Aとの間でAがCに対し甲土地を売る旨の契約を締結し、この契約に基づきA→Cの登記がされた。Bは、Cに対し、甲土地の所有権を主張することができるか。

(2) A・B間の売買契約が成立した時より5年後、A・Dは、AがDに対し甲土地を売る旨の契約をした。この時、Bは、既にAに対し代金を支払って甲土地の引渡しを受け、そこに建物を築き、家族と共に居住している。A→Dの登記を済ませたDは、Bに対し甲土地の明渡しを請求することができるか。


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山野目章夫(やまのめ・あきお 早稲田大学教授)
1958年生まれ。亜細亜大学法学部専任講師、中央大学法学部助教授を経て現職。
著書に、『不動産登記法 第2版』(商事法務、2020年)、『ストーリーに学ぶ 所有者不明土地の論点』(商事法務、2018年)、『詳解 改正民法』(共著、商事法務、2018年)、『新・判例ハンドブック1、2』(日本評論社、2018年)、『物権法 第5版』(日本評論社、2012年)など。