最低賃金は労働者の「公平感」に影響を与えるか?:実験室実験による検証

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2020.06.24
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Falk, Armin, Ernst Fehr and Christian Zehnder (2006) “Fairness Perceptions and Reservation Wages-The Behavioral Effects of Minimum Wage Laws,” The Quarterly Journal of Economics, 121(4), pp.1347–1381.

森 知晴

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最低賃金に関するパズル

最低賃金の経済に与える影響については、労働経済学では長年にわたり研究が蓄積されている。とはいえ、まだ解明されていない「パズル」がいくつか存在している。1 つは、最低賃金以下の賃金支払い(subminimum wage)を特例として認めても、実際の利用は非常に少なくなってしまう、という問題である。たとえば、Katz and Krueger (1992)は、アメリカのファーストフード店のデータを用い、若年層に対して上記の特例が認められていたにもかかわらず、その適用が少なかったことを示している。

もう 1 つは、最低賃金の「波及効果(spillover effect)」の存在である1)。この「波及効果」とは、最低賃金上昇が、直接影響を受けないと考えられる企業・労働者の行動を変えるというものである。たとえば、ある地域で最低賃金が時給 700 円から 750 円に上げられたとする。改定に伴って時給 800 円の職が増えたとしたら、それは波及効果があったということになる。日本の研究では、Kambayashi et al.(2009)が波及効果の存在を実証的に示唆している。

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脚注   [ + ]

1. Falk et al. (2006)ではもう 1 点、最低賃金と関係が深い「雇用量」に関する議論も行っているが、紙幅の都合上割愛した。