死因究明・身元確認に関する施策を推進:死因究明等推進基本法の制定

ロー・フォーラム 立法の話題(法学セミナー)| 2019.09.18
国会で成立する法律は数多くに及びますが、私たちの社会の制度変更に影響の大きい立法、私たちの生活に影響の及ぼすような立法など、注目の立法を毎月ひとつずつ紹介します。
月刊「法学セミナー」より、毎月掲載。

(毎月中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」777号(2019年10月号)に掲載されているものです。◆

背景、経緯等

わが国では、死因究明等(死因究明および身元確認)の体制が不十分であるとの指摘を踏まえ、2012年に議員立法で「死因究明等の推進に関する法律」が制定された。2014年には同法に基づく死因究明等推進計画が閣議決定され、同計画に定められた施策について、関係府省庁の連携の下、必要な取組が講じられている。しかし、死因究明等推進法は2年間の時限立法であったため、2014年9月には失効し、それから5年近くが経過した。

こうした中、年間死亡者数は、近年増加傾向にあり、とくに高齢社会の進展に伴う高齢者の孤独死などの増加が懸念されている。また、大規模災害が発生した場合には、死体の身元確認作業が困難を極めることから、災害への備えの強化という観点でも、身元確認の体制の整備・充実は重要である。

このような事情を踏まえ、今回の法制化では、死因究明等に関する施策を推進するための恒久法が取りまとめられ、議員立法により、第198回国会において「死因究明等推進基本法」が制定された(2020年4月1日施行)。

本法の概要

本法の目的として「死因究明等に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって安全で安心して暮らせる社会及び生命が尊重され個人の尊厳が保持される社会の実現に寄与する」旨を定めた。

加えて、死因究明等の推進に関する基本理念、国・地方公共団体の責務、大学による人材育成・研究の努力義務を定めた。

死因究明等に係る基本的施策として、①人材の育成等、②教育・研究の拠点の整備、③専門的な機関の全国的な整備、④警察等における実施体制の充実、⑤死体の検案、解剖等の実施体制の充実、⑥死因究明のための死体の科学調査の活用、⑦身元確認のための死体の科学調査の充実と身元確認に係るデータベースの整備、⑧死因究明により得られた情報の活用・遺族等に対する説明の促進および情報の適切な管理について規定した。

政府は、到達すべき水準や個別的施策等を定めた死因究明等推進計画を閣議決定により定めなければならない。政府は、その実施状況の検証・評価・監視を行い、3年に1度、推進計画の見直しを行う。

厚生労働省に特別の機関として、死因究明等推進本部を置き(本部長:厚生労働大臣)、①推進計画の案の作成、②関係行政機関相互の調整、③施策の実施の推進、実施状況の検証・評価・監視等を行う。

地方公共団体は、死因究明等に関する施策の検討や、その実施の推進、実施状況の検証・評価のための死因究明等推進地方協議会の設置に努める。

今後の課題等

本法の制定により、死因究明等に関する施策の推進について、恒久法という確固たる位置付けが与えられた。また、本法は、死因究明等の重要性を改めて認識させる契機にもなると考えられる。ただし、今回の法制化に当たっても積み残された課題がある。

本法に規定されているとおり、医療の提供に関連して死亡した者の死因究明に係る制度については、別に法律で定めるところによることとされた。今後、医療行為関連死という事情を踏まえ、医療過誤の事例などを考慮して、医師側・遺族側の利害のバランスをとった制度構築が求められる。

また、本法の附則には、①死因究明等により得られた情報の一元的な集約・管理を行う体制、②子どもが死亡した場合におけるその死亡の原因に関する情報の収集、管理、活用等の仕組み、③あるべき死因究明等に関する施策に係る行政組織、法制度等の在り方について、本法施行後3年を目途として検討する旨の条項が置かれている。

これらの将来の課題があるが、まずは、本法の着実な施行により、死因究明等の体制の充実・強化が図られることを期待したい。(S)

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