マッチの保留が市場の厚みを生む:動学的なドナー交換腎移植市場デザイン

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2019.10.30
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Akbarpour, Mohammad, Shengwu Li and Shayan Oveis Gharan (2014) “Dynamic matching market design,” Working paper.

野田俊也

$\def\t#1{\text{#1}}\def\bfL{\mathbf{L}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$

ドナー交換腎移植について

慢性腎不全患者に対する治療法には、腎移植と人工透析がある。腎移植は、腎臓を提供するドナーがいることが大前提となるものの、治療の拘束時間・食事制限・生存率・医療費などの面で人工透析に比べて優れている。このため、できる限り多くの患者がドナーの問題をクリアし、腎移植という選択肢を持つことが望まれる。

提供される腎臓はつねに不足している。死体ドナーの数は患者の数と比べて大幅に少ないので、死者からの提供のみで移植希望者の需要を満たすことは不可能である。このため、患者のために臓器を提供しても良いという意思を持つ健康な親族(生体ドナー)から片方の腎臓を摘出して移植する、生体腎移植も広く行われている。ただし、親族からドナー候補が見つかったとしても、ドナーの腎臓と患者の肉体が適合しなければ移植はできず、直接に臓器提供を受けられるとは限らない。ところがここで、適合性の理由から親族に直接臓器提供ができない 2 組のドナーと患者のペア A・B がおり、ペア A のドナーがペア B の患者に腎臓を提供可能で、B のドナーが A の患者に提供可能であったとすると、A・B の間で「ドナーを交換する」ことにより、A・B いずれの患者も腎移植を受けることができる。このようなドナー交換を伴う腎移植は、すでにアメリカを始めとする複数の国で実践されている。

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