特定の男女の交際を終了させることに協力する契約が公序良俗違反ではないとされた事例(滝沢昌彦)

TKC論文セレクション| 2019.05.15
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(不定期掲載)

判例情報

【文献種別】  判決/大阪地方裁判所
【裁判年月日】 平成30年8月29日
【事件番号】  平成30年(レ)第57号
【事件名】   工作委託料等請求控訴事件
【裁判結果】  控訴棄却
【参照法令】  民法90条
【掲載誌】   裁判所ウェブサイト
【LEX/DB】  25449701

事実の概要

1 事案

Yは、以前交際していたA女がB男と新たに交際していることを知り、Aと復縁したいと思い、AとBとの交際を終了させる為に、まず、平成28年4月15日に、Xにこの件に関する調査を依頼し、Xは、Bの人相や住所を調べ上げた。そして、XとYは、平成28年4月18日に、AとBとの交際を終了させることに関してXがYに協力する契約(別れさせ工作委託契約――以下「本件契約」とする)を締結した。

Xは、Y、AおよびBがいずれも未婚であることを確認した上で、Xの指示を受けた工作員C女が、Bと接触して連絡先を交換し、食事をするなどした。当初は、Cに対する恋愛感情を(Bに)抱かせてAと別れさせる計画であったが、Yの意向により、BがCと浮気している事実をAに暴露してAとBとがように仕向けることとした。本件契約の報酬は、着手金80万円、成功報酬40万円と合意されており、Yは、2回に分けて着手金の内50万円をXに支払った。

この方針に従い、平成28年5月14日に、AとBとがいる電車内にCが乗り込んで声を掛け、降車して喫茶店で話をしてCもBと交際していることを暴露した結果、AおよびCはBと別れる旨の発言をした。さらに、Cは、AとBとが別れたことを確認する為に、Aと連絡先を交換した。そして、XはYに対して、同年6月12日に、AとBとが別れた証拠を示すことができるので成功報酬の準備をして欲しい旨伝え、さらに、AとBとの交際は遅くとも7月17日には終了しており、同日、XはYに対してその旨(AとBとが別れた旨)を報告し、同月22日、別れた証拠がある旨を告げた。

2 当事者の請求および原審の判断

以上の事実に基づき、XはYに対して、本件契約の報酬の残金70万円および(訴状送達の翌日以降の)遅延損害金の支払を求め、これに対する反訴として、Yは、本件契約は公序良俗に反するなどとして(この他に契約の解除なども主張されている)既に支払った金額の返還および遅延損害金の支払を求めた。原審(大阪簡判平30・1・12LEX/DB25561544)は、本件契約が公序良俗に反するとはいえないとしてXの請求を認容してYの反訴を棄却したので、Yが、本訴の認容に対して控訴したのが本件である(なお、Yは反訴の棄却については控訴していない)。

判決の要旨

1 争点

本件契約が公序良俗に反するか否かが主な争点であるが、その他に、着手金に関する合意の解釈やXからYへの金銭支払の趣旨(これらは主に事実認定の問題であるので本稿では触れないこととする)、本件契約の目的の達成の有無、本件契約の債務不履行解除の有無なども問題とされた。

2 争点に対する判断

(1) 本件契約の目的の達成の有無について

Yは、(本件契約に基づく報酬請求の前提である)本件契約の目的が達成されたことを否定したが、本判決は、平成28年5月14日にCがAに対してBの浮気を暴露したこと、および、AとBとの交際が遅くとも同年7月17日には終了したことを認めた上で、「これらの事実を総合すれば、AとBとの交際が終了したのは、Xの指示に基づく工作に起因することを推認することができる。そうすると、本件契約の目的は達成されたということができる」とした。

(2) 本件契約の債務不履行解除の有無について

(本件契約の目的が達成されたとしても、)Yは、①本件契約の目的が達成されたこと(AがBと別れたこと)をXがYに報告しなかったこと(報告義務違反)、および、②本件契約の目的を達成する過程において、Yの依頼に基づいてCがBに近づいたことをXがAに明らかにしてしまったこと(不適切な工作)が、本件契約の債務不履行に該当するとして、平成28年5月31日に、Xに対して本件契約を解除する意思表示をしたと主張した。

これに対して、本判決は、そもそも解除の意思表示をした事実を認めるに足りる証拠はないとしつつ、さらに、これに加えて、まず、①(報告義務違反)については、前述のように、XはYに対して、同年6月12日に、AとBとが別れた証拠を示すことができるので成功報酬の準備をして欲しい旨伝え、さらに、7月17日、XはYに対してAとBとが別れた旨を報告し、同月22日には別れた証拠がある旨を告げたことが認められるので報告義務の違反はないとした。そして、②(不適切な工作)については――必ずしもYの主張と対応していない面もあるように思われるが――本件契約がYからの依頼により締結されたこと、AとBとの交際が終了することをYが強く希望していたこと、および、XがYと協議しながら自ら(X)の経験に基づき各種工作を行っていたことを指摘して、本件契約の趣旨に照らして不適切であったとは言い難いとした。さらに、平成28年5月16日、X側の落ち度により「別れさせ工作」がAに発覚したのではないかとのYの指摘に対して、Xは、そのようなことはあり得ない旨回答した事実も認定している(もっとも、これだけだと落ち度はないとXが自分で主張しているだけであるが、本判決としては、Xの落ち度により発覚したという事実は認められないという趣旨であろう)。

(3) 本件契約が公序良俗に反するか否か

Yは、本件契約の目的達成のために採られた手段は、関係者に対して肉体関係を迫ることをもいとわないような方法でされたものであり、本契約は公序良俗に反すると主張した。これに対して、Xは、AおよびBを含む本件契約の関係者が全員未婚であることを確認したし、さらに、Cに対して肉体関係を持つことで目的を達成することは禁止し、また、実際にそのような方法で目的を達成したことはないと反論した。

本判決は、認定事実などによれば、「本件契約等の目的達成のために想定されていた方法は、人倫に反し関係者らの人格、尊厳を傷付ける方法や、関係者の意思に反してでも接触を図るような方法であったとは認められず、また、実際に実行された方法も、工作員女性(C)が対象男性(B)と食事をするなどというものであったというのである。これらの事情に照らせば、本件契約等においては、関係者らの自由な意思決定の範囲で行うことが想定されていたといえるのであって、契約締結時の状況に照らしても、本件契約等が公序良俗に反するとまではいえない」として、結論として、原審を維持した(Xの請求認容・Yの反訴棄却――本判決は、反訴については控訴されていないので審判の対象外であるとしつつ、なぜか結論部分においては反訴は理由がないから棄却すべきであるとしている)。

判例の解説

一 本判決の意義

本件のような、特定の男女の交際を終了させることに協力する契約(別れさせ工作委託契約)が判例などで問題となるのは――筆者の調べた限りでは――婚姻関係の破綻を根拠とする損害賠償請求事件などで、当事者の一方が別れさせ屋に依頼したことが「事情」の一つとして取り上げられることがある程度であり(例えば東京地判平24・3・29LEX/DB25492715)、別れさせ工作委託契約に基づく報酬請求の可否が問題となった事件は本件判決のみであると思われる。その意味では、一つの事例としての意義がある判決といえる。

本件の事実関係を前提とする限り本件判決の結論に大きな異論が出るとは思われないが、しかし、(違法とまではいえないが)不当な行為をする契約に基づいて報酬を請求できるか否かを考える素材としては、興味深い事例ではある。

二 本判決の検討

前述したように、本判決では契約目的の達成の有無や債務不履行解除なども問題となっているが、本稿では、主要な論点である、本件別れさせ工作委託契約に基づく報酬請求の可否についてのみ検討する。

1 別れさせ工作委託契約の法的性質

本件では重要な論点となったわけではないが、一応、別れさせ工作委託契約の法定性質を考えるなら、特定の男女の交際を終了させることに協力することを内容とする委任契約(厳密には準委任)であるといえる。もっとも、成功報酬が定められている限りでは請負的な要素も入ってはいるとも考えられるが、別れさせるという結果まで保証することはできないので(つまり手段債務である)基本的には委任契約と評価するべきであろう。

2 特定の男女の交際を終了させることに協力する行為の違法性

そして、もし、特定の男女の交際を終了させることに協力することが違法であるなら、そのような行為をすることを目的とする委任契約も公序良俗に反して無効であることになる。しかし、たしかに、夫婦の一方と第三者が関係をもつことが不法行為として(第三者に対する)損害賠償請求権を生じさせることもあるが(最判昭54・3・30民集33巻2号303頁)、夫婦の一方と関係をもつことは(相手方の)貞操権の侵害になるのであるし、しかも、他方で、不貞行為によって夫婦が離婚に至ったとしても、不貞行為の相手となった第三者は、離婚させることを意図していた等の事情がない限り損害賠償責任を負わないとする判決もある(最判平31・2・19裁判所ウェブサイト、LEX/DB25570039)。まして、本件のように夫婦ではない男女の交際を終了させる為に介入することが、別れさせられた当事者に対する損害賠償責任を生じることは原則としてないであろう。もっとも、例えば、別れさせる為の行為の態様が悪質である場合(例えば関係者の人格や尊厳を傷付けたり関係者の意思に反したりするような場合)には(この点で)不法行為となる可能性はあるが、そうでない限りは、被害者に対する損害賠償義務を負う根拠となるか否かという意味では、別れさせ工作自体が違法な不法行為であるとまではいえまい。

3 特定の男女の交際を終了させることに協力する契約に基づく報酬請求の可否

しかし、そうであるとしても(被害者に対する損害賠償義務を負わないとしても)、別れさせ工作をしたことに基づいて報酬を請求できるか否かは別問題であろう。たしかに、別れさせ工作自体が不法行為ではないなら、別れさせ工作により報酬を請求できる旨契約で定めた場合には、当事者の意思を根拠に報酬請求権を認めてもよいようにも思える。しかし、他方で、例えば132条後段は、不法な行為をしないことを条件とする法律行為は無効であると規定しているので、この趣旨からすれば、(条件付法律行為という形をとらなくとも)不法な行為をしないこと(これ自体はもちろん適法である)に基づいて報酬を支払う旨を合意したとしても、これを認めるべきではないということも考えられる。つまり、違法な行為ではないなら、その行為をして報酬を得ることが常に認められるとは限らないのである。ここからさらに推して考えるなら、別れさせ工作についても、それにより損害賠償義務が生じることはないとしても、別れさせ工作のような(違法ではないとしても不当な)行為に基づいて報酬を請求できるとすることは妥当ではないという判断もあり得るのではなかろうか。

132条の立法趣旨について詳しく検討されることは少ないが1)亀田浩一郎「不法条件無効・不能条件無効」椿寿男編『法律行為無効の研究』(日本評論社、2001年)448頁。、起草者によれば132条は旧民法財産編の413条に由来するところ2)廣中俊雄編著『民法修正案(前三編)の理由書』(有斐閣、1987年)180頁。、同条2項は「当事者ノ一方カ或ハ禁止ノ所為ヲ行ヒ又ハ本分ノ責務ヲ尽ササルニ因リテ自己ニ利ヲ得或ハ禁止ノ所為ヲ行ハス又ハ本分ノ責務ヲ尽スニ因リテ自己ニ害ヲ受ク可キトキハ其条件ハ不法ナリ」と規定していた。つまり、元来は、不法行為をして報酬を得たり、不法行為をしないことに基づいて制裁金を課されたりするような場合が想定されていたのであり、不法行為をしないことに基づいて報酬を請求できるかまでは問題とされていなかったのである。ところが、現132条の起草過程において、「不法ノ行為ヲ為ササルヲ以テ条件ト為ス場合ニ於テハ或ハ観察ノ方法ニ依リテ法律行為ヲ無効トスル理由ナク却テ之ヲ奨励スヘキモノノ如ク見ユト雖モ」としつつも、「不法ノ行為ヲ為スヘカラサルハ当然ノ事ニシテ当然ノ事ヲ為スカ為メニ利益ヲ受ケ報酬ヲ得ヘキ理由ナク即チ不法行為ヲ為ササルコトニ値ヲ附シテ之レヲ買フカ如キハ法律上許スヘカラサルコトトス」という理由で、不法行為をしないことに基づいて報酬を請求することもできないとされたのである3)前掲注2)180頁。

学説も、これを受けてか、132条後段の趣旨について、不法行為をしないことは当然であるから(報酬を請求することはできない)という説明をすることが多いが4)例えば岡松参太郎『注釈民法理由(上)』(有斐閣、1897年)323頁。、一見分かりやすいこの説明は、しかし、不法行為をしないことを条件とする法律行為を無効とする根拠としてはやや消極的であるように思われる。当然のことをしたのだから報酬を請求できないというのでは、論理的なつながりが悪いのではなかろうか。この点を考えてか、より一歩進めて、「不法行為をしないということを法律行為の効果と対価的又は交換的関係におくことによって、法律効果の利益を放棄するか又は受けなければ、不法行為をしてもかまわないという心情に当事者をおくことによって不法性をあらわす場合が無効とされる」と論じる見解もあり5)於保不二雄『民法総則講義』(有信堂、1951年、復刻版は新青出版、1996年)252頁。、こちらの方が、不法行為をしないことを条件とする法律行為を無効とする根拠としては説得力があるように思われる。そして、それなら、同様に、必ずしも(不法行為をしないという)条件付の法律行為という形をとらなくとも、不法行為をしないことに基づいて報酬を支払う旨の合意についても、報酬を受けられなかった場合に不法行為を誘発する可能性があると考えられるので、この意味からは合意の効力を認めるべきではないともいえるはずであろう。もっとも、他方で、132条後段の解釈は厳格にするべきであるとし、例えば不倫な関係を絶つことを条件とする手切金の契約などは有効としてよいという指摘もあるが6)我妻栄『新訂民法総則』(岩波書店、1965年)284頁。、このような契約は、不倫な関係の維持を誘発するという面はないので(手切金を支払わなかったからといって不倫な関係を維持するように相手方が要求するとは思えない)、上記のような(不法行為の誘発を防ぐという)考慮からしても、契約を有効としてよいのである。最終的には、90条をどのように適用するべきかという(90条の)解釈論に行き着くと思われるが、その契約が、不当な行為を誘発または奨励する方向に働くか否かをも一つの考慮要素として検討するべきなのである。

さて、別れさせ工作委託契約に基づく報酬について考えてみよう。ここでは、132条後段のように報酬を支払わないときに不法な行為を誘発する虞れが問題となっているわけではない。しかし、前述したように、本件のような未婚のA女とB男との関係にC女が介入してくること自体は違法とまではいえないが(恋愛における自由競争?)、他方、もっぱら報酬目当てに他人の人間関係を壊す為に介入することが望ましいとは思われず、むしろ(違法とはいえなくとも)不当な行為であろう(本件原審も本件契約には道徳的には問題があると指摘している)。そうであるなら、本件の別れさせ工作が(損害賠償義務を生ずるという意味での)不法行為ではないとしても、別れさせ工作委託契約に基づいて報酬を支払わせるべきか否は別問題として考えることもできるであろう。本判決の結論そのものに異を唱える趣旨ではないが、本判決は、契約の目的達成の為に想定されていた方法の悪質性などを検討したのみで、そこからただちに本件契約が公序良俗に反するとまではいえないとして別れさせ工作委託契約に基づく報酬請求権を認めているところ、報酬請求権を認めると、本件のような別れさせ工作委託契約を奨励(?)することになる点についても考慮した上で、公序良俗に反するか否かを判断しても良かったのではなかろうか。

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滝沢昌彦(たきざわ・まさひこ 一橋大学教授)
1959年生まれ。一橋大学法学部卒業、司法修習(37期)の後、1985年に一橋大学法学部助手、同専任講師、同助教授を経て現職。主要著書として、『契約成立プロセスの研究』(有斐閣、2003年)、『民法がわかる民法総則[第4版]』(弘文堂、2018年)など。

脚注   [ + ]

1. 亀田浩一郎「不法条件無効・不能条件無効」椿寿男編『法律行為無効の研究』(日本評論社、2001年)448頁。
2. 廣中俊雄編著『民法修正案(前三編)の理由書』(有斐閣、1987年)180頁。
3. 前掲注2)180頁。
4. 例えば岡松参太郎『注釈民法理由(上)』(有斐閣、1897年)323頁。
5. 於保不二雄『民法総則講義』(有信堂、1951年、復刻版は新青出版、1996年)252頁。
6. 我妻栄『新訂民法総則』(岩波書店、1965年)284頁。