「解放」としての企業家精神:歴史のなかのルース・ハンドラーとバービー人形
Giacomin, V. and Lubinski, C.(2024) “Entrepreneurship as Emancipation: Ruth Handler and the Entrepreneurial Process `in Time’ and `over Time’, 1930s-1980s,” Business History, 66(7): 1888-1915.
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矢島ショーン
はじめに
「企業家精神 (アントレプレナーシップ) 」は、今日の経済学・経営学における最も重要な研究課題の 1 つである。経営学者の清水洋によれば、企業家精神は「現在コントロールしている経営資源にとらわれることなく、新しいビジネス機会を追求する程度」と定義される (清水 2022, p.3)。対象を経済的な利潤 (富) の獲得につながる活動に絞ってよいのかなど、定義をめぐる議論は尽きないが、いずれにせよ、個人や組織の現状にとらわれずに新たなビジネス・社会変革の機会をみつける能力は、経済的な停滞に苦しむ今日の日本社会において、その重要性を増している。
今回紹介する論文は、社会的な規範や束縛からの「解放」を通じた企業家精神を歴史的に論じた研究である。本論文は、ボッコーニ大学 (イタリア) の Valeria Giacomin とコペンハーゲン・ビジネス・スクール (デンマーク) の Christina Lubinski が、2024 年に経営史のトップジャーナル Business History 誌に発表したものである。著者らによれば、企業家精神は長いあいだ、「富の創出に関わるもの」として狭く定義されてきた。これに対して近年、「社会的な価値の創出」を含むものとして企業家精神を再定義する動きが進んでおり、その代表例が「『解放』としての企業家精神 (Entrepreneurship as Emancipation)」論である。Violina Rindova らが唱えるこの理論は、既存の秩序からの自由・自律をもとめる「解放」が、企業家によるビジネス創造の駆動力になると主張する1)。「解放」としての企業家精神のあり方を歴史的に論じるのが Giacomin and Lubinski (2024) の核となるアイデアである。
脚注
| 1. | ↑ | 「解放」としての企業家精神については、Rindova, Barry and Ketchen (2009) を参照。 |













